もっとも、この人事が示しているのは、従来の”トランプ流”を変えずに推し進めるという意思表示だろう。

 辞任したマナフォート氏はトランプ氏が党の指名を濃厚にして以降、本選で勝てる候補者に仕立てようと腐心してきた。攻撃的で脊髄反射的な発言を控え、より本質的な政策論を語り、彼に懐疑的な人々に歩み寄り、激戦州にしっかりと広告を投入する──。これは、無党派層を含め幅広い層を取り込む上で当たり前の路線である。特に、私用メール問題などでクリントン氏の信頼性が地に落ちているだけに、不規則発言をやめてクリントン氏のリーダーとしての資質や強い米国の再生にフォーカスすれば、勝つ見込みは皆無ではない。

「方向転換すれば、人々に対して正直ではいられない」

 だが、ノーマルな候補にするというマナフォート氏の振り付けをトランプ氏は窮屈に感じていたようだ。バノン氏とコンウェイ氏を起用する前に、トランプ氏はテレビ局の取材にこう述べていた。「私は方向転換したくない。自分を変えたくない。方向転換すれば、人々に対して正直ではいられない」。最近でこそ、プロンプターを見ながら演説するケースが増えているが、それは自分のやり方ではなく、その方法を突き詰めても勝てないということを本能的に感じたのだろう。

 そして、トランプ氏の直感は恐らく正しい。

 現在の情勢を考えると、トランプ氏が大統領選で勝利する可能性は低い。「トランプ大統領阻止」という一点においてクリントン氏が挙国一致体制を築きつつあることを考えれば、トランプ氏が地滑り的な大敗を喫することも十分にあり得る。だが、トランプ氏は既存政治に反旗をひるがえすアウトサイダーとして支持を広げてきた。そして、ライバル候補や主流派に対する暴言、さらに社会的タブーに対する率直な物言いを「正直」という評価に変換してきた人物である。

 そういった経緯を振り返れば、このタイミングで下手にバランスを取るよりも、自身の強みを突き詰めた方がまだ勝ち目があると判断しているに違いない。「勝ちたいと思っている人間は勝つために妥協するために逆に勝てない。トランプ氏が勝つには、変に妥協せずに、今までのことをやり続けた方がいい」と東京財団の渡部恒雄政策研究ディレクター兼上席研究員も言う。

“ダントツ”の強みを伸ばす戦略へ

 企業経営では、弱みに目をつぶって強さを磨くのはひとつのセオリーだ。例えば、コマツの中興の祖と言える坂根正弘相談役は「ダントツ経営」を標榜、商品開発における平均点主義を止め、得意分野を徹底的に注力することで、世界初のハイブリッド油圧ショベルやGPS端末で建機の稼働情報をモニタリングする「KOMTRAX(コムトラックス)」などの独自商品・サービスを生み出した。

 もちろん、大統領選と企業経営は別物であり、その戦略を突き詰めたところで勝てる保証は全くない。客観的に見れば、クリントン氏に新たなスキャンダルが浮上するか、テロなど社会の雰囲気を一変させる出来事が起きるなど、他力的な要素が必要になるだろう。それでも、トランプ氏が勝つには、彼を彼たらしめた強みを伸ばす以外になく、そういう意味では戦略の方向性は間違えていないように思う。