4.異次元緩和の限界と高まるリスク

 異次元緩和によって、日経平均株価は2倍以上に上昇し、為替レートも円安に大きく動いたにもかかわらず、実質成長率(2013~17年)は年率1.3%未満にすぎず、1990年以降の平均成長率1.0%とほとんど変わっていない。

 すなわち、日本経済の成長率はバブル崩壊後の長期停滞の水準から脱却できていないのである。しかも、2018年1~3月期の成長率が9期ぶりにマイナスになった模様で、この状態が続けば異次元緩和後の平均成長率は1.0%に再び戻っていくと予想される。

 金融緩和によって、一時的に景気が良くなったとしても、長期的にはその副作用と景気後退によって相殺されることが知られている。これは、「通貨の長期中立性」と呼ばれているが、金融政策によって潜在成長率を上げることはできないことを意味する。今後やって来ると予想される景気後退と出口戦略に伴う悪影響(副作用)が、今回の異次元緩和に伴う内発的リスクである。

 さらに、世界経済に危機が起こり、日経平均株価が再び1万円に向けて下落し為替レートも円高になるようなことがあれば、ETFを大量に購入している日銀、国内外株の保有率を上げたGPIF、外債投信の保有を急増したゆうちょ銀行は大きな損失を被ることになる。また、金融政策はもうすでに限界近くまで緩和しているので、世界金融危機が再び起こった場合、それに適切に対処する手段としてはもう使えない。これが今回の異次元緩和に伴う外発的リスクである。

 今後、異次元緩和に伴う内発的リスクと外発的リスクにどう対処していくべきなのか、それが日銀にとっての最大の課題である。

 次に、ゼロ金利の下での異次元緩和は経済成長に大きな効果がないことを指摘しておく。ゼロ金利の下では、銀行にとって国債と日銀当座預金は完全代替資産になってしまう。そのため、いくら日銀が国債を購入しても、銀行は国債を売却して得た資金を企業に貸出すリスクは取らず、日銀当座預金に積み上げるだけに終わる。

 したがって、異次元緩和によりベース・マネーを増大させても銀行による信用供給の増大につながらない。信用供給が増大しなければ民間企業の経済活動も活発にならない。すなわち、ゼロ金利の金融緩和の下では、一時的にすら成長率を大きく上昇させることができなくなる。さらに付け加えれば、通貨供給ではなく信用供給を重視する新しい金融理論によれば、金利はそもそも経済活動の調整メカニズムとしては中心的役割を果たさない(注3)。

 政府と日銀は異次元緩和を始めた時、実質2%(名目4%)の経済成長率を期待していたと思われるが、それは(消費税率の影響を除くと)一時的にも実現しなかった。結局、デフレ脱却後も継続し続けた異次元緩和によって生み出されたのは内発的リスクと外発的リスクの増大である。

(注3) J.E. スティグリッツ・B.グリーンワルド(内藤純一・家森信善(訳))、『新しい金融論―信用と情報の経済学』、東京大学出版会、2003年.

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