3.金融不均衡を捉える動学的価格指数の有効性

 今回、1991年に筆者が発表したDEPIに理論的改良を加えた新しい動学的均衡価格指数(DEPI)を使って、バブル期以降のDEPIインフレ率をアップデートしたのが前出のグラフである。新しいDEPIは、「資本の限界生産(資本生産性)=実質金利+資本の減価償却率」という均衡条件を利用することにより、資本生産性というファンダメンタルによる資産価格の上昇とインフレによる資産価格の上昇(バブル)を明確に区別することができるようになった(注2)。

 例えば、実質金利の上昇を伴う資産価格の上昇は、インフレではないのでDEPIは上昇しない。他方、実質金利の上昇を伴わない資産価格の上昇はインフレ(バブル)であり、DEPIは上昇する。さらに、実質金利の低下を伴わない資産価格の下落はデフレであり、DEPIは減少する。このように、動学的均衡価格指数(DEPI)によって真のインフレやデフレという極めて動態的な金融不均衡を正確に測ることができるようになった。

 日銀は消費者物価指数(CPI)を使って年率2%のインフレ目標を設定したが、いまだに目標を達成できずにいる。そもそも、CPIを構成する財・サービス価格は硬直的であることはマクロ経済学の常識になっている。実際、CPIによればアベノミクス以降インフレは発生しておらず、いまだにデフレから十分に脱却できていないように見える。

 確かに、サブプライム・ローン問題が発生した2007年から2009年にかけては日本経済においてもデフレ傾向が非常に強く、金融緩和は全く不十分であった。しかし、動学的均衡価格指数(DEPI)によれば、2013年以降、異次元緩和によって1980年代後半のバブル時代に次いで高い水準のインフレが発生していた(2ページの図参照)。

 すなわち、アベノミクスによる異次元緩和は、文字通り強力な金融緩和であり、2013年と2014年に2年連続10%以上のDEPIインフレを経験しており、日本経済はすでにデフレから完全脱却していたのだ。

 それにも関わらず、日銀は2%のCPIインフレ目標に固執して、過剰な異次元緩和を続けている。したがって、再び今回も、1990年のバブル期と同じように、誤った近視眼的価格指数(CPI)に基づいて、超金融緩和を誤って継続している可能性が高い。

 動学的均衡価格指数(DEPI)によれば、本来は、2013~14年の異次元緩和をもっとマイルドなものにして、その代わりもっと持続性の高い金融緩和にすべきだったのである。そうすれば、DEPIを0%~10%の間のプラス領域で安定して長期間維持できたはずである。しかし、あまりにも過激な異次元緩和をしてしまったので、その効果は一時的には大きかったが、その後急速に低下してしまった。結局、日銀の異次元緩和は過剰だったのである。

 今回の過剰な異次元緩和の結果として、どのような負の結果が日本経済にもたらされるのだろうか。前回のバブル期の失敗のように資産バブルと長期停滞が起こるのだろうか、それとも異次元緩和の出口戦略に伴う金融市場の混乱が日本経済にもたらされるのだろうか。いずれにせよ、金融政策の失敗にはそれ相応のコストが伴う。

(注2)
ただし、s=基準時、t=時間、p=CPI、q=資産価格、r=実質金利、δ=資本減価償却率、α=時間選好と生活費期間数によって決まるパラメーター。α=1の場合、DEPI=CPIとなる。すなわち、DEPIは普遍的な価格指数であり、CPIはDEPIの特殊なケースである。