2.バブル期の金融政策失敗の原因

 1ページで述べたように、日銀は消費者物価指数(CPI)という1期間の生活費を測る静学的価格指数を情報変数として金融政策を進めてきた。しかし理論的に正しい価格指数は、長期間の期待生活費の現在価値に基づいて真のインフレ動向をより正確に捉えることができる動学的価格指数の方である。

 したがって、中央銀行による正しい金融政策は、CPIのような静学的価格指数ではなく、より普遍的な動学的価格指数に基づいて実行されなければならない。誤った価格指数を政策判断のための情報変数として使うと、必然的に誤った金融政策へとつながるからである。

 筆者は、1990年以降のバブル崩壊時、資産価格を理論的に組み込んだ動学的価格指数を支出関数最小化問題の解として具体的な方程式の形で導出し、それを「動学的均衡価格指数(DEPI)」と名付けた(注1)。そして、DEPIによるインフレ率に基づいて、1990年のバブル発生前には過剰な金融緩和、そしてバブル崩壊後には過剰な金融引締めをすることによって、日銀は誤った金融政策を遂行していたことを示した。

 すなわち、日本の「失われた28年」の出発点となった1990年前後のバブル発生と崩壊の背景には、金融政策の失敗があったのである。

 バブル時における金融政策の失敗は、静学的価格指数(CPI)を使ってインフレに関する近視眼的な認知誤謬に基づいた政策判断をしたことに根本原因がある。実際、静学的価格指数(CPI)は1990年のバブル前後の期間を通じて比較的安定していた(図)。特にバブル前にはインフレの気配を全く見せていなかった(1989年の3%消費税導入の影響を除く)。

誤っていたCPI

 その結果、日銀は適切な金融引締めを実行することができなかったのである。しかも、1990年のバブル崩壊後は、CPIは減少を示すどころか逆に上昇している。バブル崩壊後の日本経済のデフレ状況について、CPIはインフレが発生していると誤ったシグナルを送ったのだ。

 一方、動学的均衡価格指数(DEPI)は1990年前(1986~89年)には大きく上昇(インフレ)しており、1990年後には大きく下落(デフレ)していた(図)。すなわち、日銀は1989年12月に頂点に達したバブル前には緩和し過ぎ、そしてバブル崩壊後には引締め過ぎたことをDEPIは示しているのである。

 以上の点からも、金融政策のための情報変数として、CPIとDEPIのどちらが優れているか、CPIインフレ率とDEPIインフレ率を比較したチャート図を見れば明白であろう。実際、動学的均衡価格指数(DEPI)に基づいて正しい金融政策をしていれば、1990年前後のバブル発生と崩壊、さらにはその後の日本経済の長期停滞も防ぐことができた可能性が高い。

(注1) 澁谷浩、「動学的均衡価格指数の理論と応用-資産価格とインフレーション」、金融研究(日本銀行金融研究所機関誌)、第10巻第4号、1991年.