原点に戻れるか

 まず「レポートを出せ」と言われた部下は、どう感じるだろうか。「どうせ、俺たちが悪い、努力が足りなかったって言いたいんだろ。説明したって『言い訳だ』って言われる。正直に腹を割って話したところでバカを見るだけだ」。開発本部で幹部がレポートを求めた時もそうだったろうし、益子会長が役職者にレポートの提出を求めてもきっとそうなるだろう。ではどうすればいいのか。

 上司と部下の壊れた関係を修復するには、上司が部下に何かを求める前にまず、自ら相手に歩み寄り、与えることが不可欠ではないだろうか。こう書くと「精神論に過ぎない」「やわだ」などと言われそうだが、同じ会見で日産自動車出身の山下副社長がこんなことを言っていた。

 「就任して約1カ月、(開発の)従業員に個別にインタビューしたり会ったりして、5000人を超える人たちの声を聞いた。すると、『今回は本当にやれるんですか? 大丈夫なんですか?』と聞かれる。こうした声に答えないといけない」

 「具体策は手元にいくつかあるが、まだ全てを公表できない。ただ言えるのは、益子会長が先ほど話したように、開発車種を減らして身の丈にあった車種展開をする。開発にはどのくらいの人がいて、どのくらいの工数がかかっているのか。残念ながら我が社には、工数を見積もる手段がない。シャシーやエンジンなど、それぞれの機能ごとにこれまでどのくらいの工数がかかって、何人必要になるのか。こうしたことを欠くと負荷が偏ってエンジニアが苦労をする。自動車開発の基本の基本だが、こういうものから整備していきたい」

 部下は上司の姿勢を上司が思っているよりもよく見ているものだ。本当に会社を変えようとしているのか。それとも部下の悪事をあぶりだそうとしているだけなのか。その違いは、上司のちょっとした発言や行動から感じ取れる。

 益子会長は2005年に三菱商事から三菱自動車にやってきて、業績を改善することに成功した人物だ。むろん、社員たちの声に耳を傾けてきたからこそ成し得たのだろう。ただ、現在の三菱自動車を見れば、どこかで歯車が狂ったことは間違いない。もう一度、2005年当時の気持ちを思い出して原点に立ち返れば、三菱自動車を本当の意味で生まれ変わらせることができるのではないだろうか。