「再びリコール問題が起こるのでは」

 報告書は、2011年2~3月に三菱自動車社内で実施された「コンプライアンスアンケート」の件に触れていた。アンケートの自由記述欄には、社員たちから次のような記述があったという。

 「法規認証部門からの各国自動車関係法規の情報が不十分で、100%法規に準拠した商品開発ができていない」

 「競合他社がやっているとはいえ、燃費を上げるために実用上とかけ離れたことをやる」

 「無謀な超短期日程、少ない人員で開発した自動車は品質が極めて悪い。リコール問題を起こす前と状況が似ており、再びリコール問題が起こるのではと危惧している」

 2011年は、くしくも燃費問題が発覚するきっかけとなった、日産との共同出資会社であるNMKV(東京都港区)が設立された年である。これほどまでに具体的な指摘が社員から上がっていたにもかかわらず、経営陣は適切な対策を打たなかった。この件について会見の冒頭、益子会長はこう釈明した。

 「(アンケートの結果を受けて)担当部門に調査を依頼したが、問題なしとの報告を受けていた。不正を発見するチャンスがあったのに深掘りできず、見逃した。反省している」

「報告の上げ方にも問題があった」

 ところが、複数の記者から幾度もこの件に関する質問が出ると、益子会長はこう打ち明けた。

 「アンケートの上がり方にも問題があった。セクハラ問題や情報流出問題など、非常に多くの項目が含まれていて、いわゆる職場環境の改善の話と本当のリスクの話が一緒になって報告されていた。今後は別立てで管理することが必要だ」

 言葉を選んではいたが、要は「部下の分かりづらい報告の上げ方にも問題があった」と言っているように聞こえた。

 さらに会見で益子会長は、今後の再発防止策の一部として本部長以上の役職者にレポートを提出してもらうことを明かした。燃費不正が起きてしまったことを踏まえ、「どのように受け止めているか」「身近にあるほかのリスクは何か」「それに対して何をすべきか」などを自由記述で書いてもらい、全員と面談するという。

 「またか」。記者はこれを聞いた時、そう思った。というのも、報告書には、三菱自動車の開発本部では目標が達成できないようなことがあると、現場の技術者は開発PM(プロジェクト・マネジャー)ら幹部が納得するまで何度もレポートなどによる説明を要求されると書かれていたからだ。

 今回の燃費問題に限定していえば、目標を達成できない責任を負わされていた性能実験部は実質的に、燃費を大幅に改善するための術を持ち合わせていなかった。それでも何度も幹部が納得するまで説明を求められたため、「性能実験部は、できないという証明をするよりも、取りあえずできると言った方が楽であるから、できないことの証明を諦めたり、また、できないことの証明に膨大な努力が必要となる現実を目の前に、そもそも『できない』と言うことを憚ったりしたのであった」(報告書)。

 これらを鑑みると、「上司が部下にレポートで報告させる」という文化が三菱自動車社内にあることが分かる。だが、この行為には決定的に欠けているものがある。相手の状況や立場を「おもんぱかる」という姿勢だ。

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