第2回は、14年型eKワゴン(2013年6月発売)の開発期間中、当時の社長だった益子修氏ら経営陣が燃費目標の策定にどう関わっていたかに焦点を当てた。第3回は、現場のコンプライアンスに対する意識の低さとそれを招いた会社の風土について取り上げる。

 現場の実情に耳を傾ける土壌が果たして三菱自動車にあったのか――。燃費不正問題に関する調査報告書を読み解く本連載の第3回は、そこに焦点を当てていく。第1~2回では、14年型eKワゴン(2013年6月発売)の開発期間中、開発会議や商品会議において燃費目標が5回も引き上げられ、現場が追い詰められていった様子を見てきた。では、現場は被害者なのかというとそうともいえない。時計の針をいったん1991年に戻そう。

不正行為を自動化する「逆算ソフト」

2016年8月2日に三菱自動車のウェブサイトで公開された「燃費不正問題に関する調査報告書」。印刷できないようロックされていたため同社に問い合わせたところ、「資料の内容を改ざんされる恐れもあるので印刷機能とコピー&ペースト機能にロックをかけた」(広報部)と説明した。

 燃費にまつわる不正は当時から始まっていた。車両の型式指定審査を国土交通省から受ける際、法規と異なる方法で測定した「走行抵抗値」をあたかも法規通りに測定したかのように書類に記載し、提出していた。ガソリン車で法規が定められたのは1990年。その後、初めて三菱自動車が型式指定審査を申請したのが「92年型ミニキャブブラボー」で、この時から既に法規と異なる手法の採用が始まっていた。

 動機は、ざっくり言ってしまえば「面倒だった」からだ。

 法規で定められている「惰行法」では、テストコースで試験車両を何度も行ったり来たりさせる。車両の変速機をニュートラルにした状態で、指定の速度の+5km/hから-5km/h、例えば95km/hから85km/hに減速するまでの時間(惰行時間)を0.1秒単位で測る。指定の速度は時速20~90kmまでの8種類。往路と復路を最低3回ずつ測り、平均値を求める。

 やっかいなのは、測定のたびに気温や大気圧、風速を計測しなければならず、測定時の風速条件も細かに決まっている点だ。さらに、往路なら往路、復路なら復路の惰行時間の最大値と最小値の比が1.1以下でなくてはならないという決まりもある。そのため、これらの条件を得るまでに何度も測定を繰り返さなければならなかった。

 走行抵抗値は本来、型式指定審査を受ける直前、つまり開発の最終段階の試験車両で測定すべきものだ。しかし、報告書によると、三菱自動車では遅くとも1991年12月頃から、開発途中でいずれにしても測定することになっていた動力性能実験の結果を用いて走行抵抗値を「逆算する」やり方を採用していた。

 動力性能実験で実施していた方法が、同社の性能実験部が独自に作成した「高速惰行法」だ。この方法では、150km/hから10km/h以下に減速するまでの1秒ごとの速度を測定する。そこから複数の計算を経て走行抵抗値を出し、あたかも開発の最終段階に実施したかのように見せていたのだ。もちろん、提出資料に記載していた気象データもデタラメだ。

 これだけではない。一連の逆算を“効率化”するため、既にあるデータや目標の走行抵抗値を入力するだけで指定速度ごとの惰行時間などが自動的に算出できるソフトウェアまで作成していた。開発現場のあまりのコンプライアンス意識の低さに驚かされる。