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日欧EPAはチーズも自動車も今一歩か

 それは妥結結果に見て取れる。大枠合意した日欧EPAで最後まで交渉の焦点だったのが、チーズと自動車だった。日本国内では、「自動車のためにチーズで譲った」と評する向きもある。果たしてそうだろうか。実態は外務省による「総合調整の深掘り」が十分なされないまま、早期妥結を優先したようだ。その結果、自動車のゲインもチーズのロスもそこそこの、双方が合意しやすい内容になっている。

 EU側の関心事項であったチーズの関税削減を見てみよう。

 カマンベールやモッツアレラなどソフト系チーズについて新たに低関税輸入枠を設定した。この枠内での関税率を徐々に削減して、16年目に撤廃する。その輸入枠は初年度2万トンから16年目に3万1000トンに拡大する。低関税での輸入枠が現在の2万トンから1.5
倍に拡大するだけなので、影響は小さい。

 他方で、日本側の関心が高い自動車はどうだろうか。韓国車は既にEUとの間で2016年から関税が撤廃されている。それを背景に猛烈な販売攻勢を欧州で繰り広げ、シェアが着実に増えている。日本メーカーの危機感から、日本政府にとって自動車が最大の焦点となっていた。結果は、EUが日本車に課している現在の10%の関税を、段階的に引き下げて8年目で撤廃するというものだ。

 確かに関税撤廃で韓国車との競争条件が対等になることは日本の自動車業界の長年の念願で、大いに評価できよう。確かに10%の関税がなくなるのは大きい。ただし、それが8年後というは遅すぎないか。自動車業界の熾烈な競争を考えると、この先8年の間にも韓国車はシェアを確実に伸ばしてくるだろう。

 最近は英仏が 2040年にはガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出したり、自動運転技術が加速的に進展したり、自動車産業を巡る変化のスピードはかつてとは比較にならないほど速い。米テスラや米グーグル、米アップルなどが自動車分野に相次いで参入しており、技術革新の激しいエレクトロニクス業界のそれにも匹敵するぐらいだ。8年も経てば業界の状況も恐らく激変しており、今回の合意内容がどこまで効果を発揮するか、かなり微妙だろう。

 分野ごとの交渉としては最大限の努力の成果であろうが、仮に交渉体制、交渉プロセスが「総合調整志向のTPP型」であったならば、もう一歩深掘りした結果を引き出せたのではないだろうか。

この秋、通商の新布陣の本気度が試される

 問題は、これから本格化する通商問題の“秋の陣”だ。通商交渉の正念場を迎える日本は、TPP型の交渉体制を作ることが不可欠だ、と官邸も強く意識している。今回の内閣改造で任命された茂木新大臣の国際交渉力も期待されており、内閣官房には各省からの精鋭も再び呼び集められているようだ。日米経済対話についても、今回の各省の人事異動で、麻生副総理のもとに、財務、経産、外務からそれぞれかつての麻生内閣時に秘書官として麻生氏に仕えた次官級が勢ぞろいすることとなった。

 ただし、これら人材の配置という布陣は必要条件ではあるが、十分条件ではない。

 官邸の本気度があってはじめて、茂木・麻生両大臣の本気度につながり、それがそれぞれの官僚チームの一体感を生む。これがTPP交渉、日欧EPA交渉の教訓ではないだろうか。この秋は、TPPの教訓を活かした戦いができるかどうか、注目される。