考えられない燃費目標の5回の引き上げ

 その名も「MMDS(Mitsubishi Motor Development System)」。開発フローの中にいくつかの「ゲート(関所)」を設け、目的の品質が達成できていなければ通過させないというものである。

 ゲートは全部で6つ(下の表)。商品の構想を固める時のゲート「F」、その商品構想に基づいて仕様目標を固める時のゲート「E」、その目標に基づいて事業計画を立てる時のゲート「D」、開発のメドが付いて生産に着工できるレベルの設計ができた時のゲート「C」、全ての開発を完了した時のゲート「B」、そして生産を開始する直前のゲート「AP」だ。例外はあるものの、燃費などの目標は基本的にゲートEの時点で確定される。

ゲートの名称 概 要
商品構想ゲート(F) ・商品構想を固めるゲート
商品構想ゲート(E) ・商品力目標を固めるゲート
商品構想ゲート(D) ・事業計画を固定するゲート
商品構想ゲート(C) ・生産着工図を発行するゲート
商品構想ゲート(B) ・開発を完了するゲート
商品構想ゲート(AP) ・生産を開始するゲート
報告書に掲載された「各ゲートの名称および概要」

 ところが、だ。NMKVが最初に世に送り出したクルマ「14年型eKワゴン」(2013年6月から販売開始)では、ゲートEを通過した後、5回にわたって燃費目標の数字が引き上げられた。重要なのは、変更の回数とタイミングだ。

 まず回数。名古屋製作所の開発本部に勤めていたOBは「燃費目標の変更はあっても1回。時間的に開発チームが対応できるのは最大でも2回までだ」と証言する。このOB自身、経験したことがあるのは1回の変更だけだったという。一方、14年型eKワゴンでは5回も目標が変わった。「そんな変更は到底、現場は対応できない」(OB)。

 三菱自動車は他社に比べ、圧倒的にマンパワーが不足していた。「マツダとほぼ変わらない開発案件を抱えているのに、人員はマツダの半分か1/3程度」(三菱自動車関係者)。報告書でもこの人手不足は不正が起きた重要な要因の一つとして指摘している。

 だが、5回の目標変更が異常であるという点は、三菱自動車だけではなくどのメーカーでも言えることだ。燃費を大幅に向上させようとすると、エンジンの高効率化や車体の形状変更といった大掛かりな設計変更が不可欠になる。設計変更を実施するためには「少なくとも数カ月は必要」(前述のOB)。約2年間の開発期間の中で5回もの変更は物理的に不可能だったはずなのだ。

 次にタイミング。開発過程の早いタイミングでなら変更に対応できた可能性もゼロではない。しかし、報告書によると14年型eKワゴンの開発では、ゲートEの時点で28.0km/lだった燃費目標は、ゲートDを通過する前に28.2km/lに引き上げられ、さらにCを通過した後に29.0km/lに上げられた。ゲートCというのは生産着工図を発行するタイミングである。ここまで確定した後に設計を変更するのは容易ではない。

 きわめつけは最後の変更だ。ゲートBの通過と同時に29.2km/lに引き上げられた。ゲートBは、開発を完了したタイミングだ。完了したのに引き上げたということは、設計によって燃費の実力を上げようという意志がそもそもなかったことを示している。

 残された道は二つ。販売を延期したうえでゲートを戻し、設計変更をするか。あるいは、燃費目標を引き下げて実力の数値で発売するかだ。だが、「その間、ゲートが戻ることはなかった」(報告書)。実力の数値で発売する決断もなされなかったことは周知の通りだ。

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