誰のための統合か、遅すぎた議論

 石油元売り業界では、出光・昭シェルと並行し、JXホールディングス・東燃ゼネラル石油も来年をメドに経営統合する計画を進めている。業界はJX・東燃と、出光・昭シェルの2強体制に突入する見通しで、足元では公正取引委員会による審査も進んでいる。仮に出光・昭シェルの統合が破談となったとしても、JX・東燃統合の審査には大きな影響はないと見られるが、2強体制を前提とした各社の戦略は見直しを迫られる可能性がある。

 石油需要は減少の一途をたどっており、2040年度には2000年度の半分近くまで需要は減る見通し。縮小する市場で生き残りを図るため、各社は再編を模索してきた。足元では、供給過多による安値競争に悩まされている。自社系列のガソリンスタンドでさばき切れない余剰在庫が安価で市場に出回り、巡り巡って元売りの収益を圧迫する状況に陥っている。再編が実現すれば「業界の秩序を保てる」と関係者は言う。「元売りの数が減れば、余剰となっている生産能力を減らしやすくなるし、競争環境が緩和するので利益も出やすくなる」(関係者)からだ。国もエネルギー供給構造高度化法で元売り各社に実質的な減産を一律で迫るなどして暗に再編を求めてきた。つまり2強体制の誕生は、業界にとっても、国にとっても「成果」となる。

 創業家側はこうした再編ありきの業界動向に真っ向から異を唱える。「再編が悪いとは言わないが、2社体制で雨宿りしようとしても、(需要縮小という)嵐が過ぎ去ることはない」。創業家の顧問弁護士を務める浜田卓二郎氏は会見でこう強調し、「そもそも2社体制で損をするのは消費者だ」と話した。同じような見方は株式市場からも出ている。「在庫を安値で販売するのは、競争という観点からすれば当然のこと。業界一律で減産したり、国の後押しで再編して価格の安定を図ったりして『業界の秩序』を優先することが消費者のためになるかは疑問だ」(業界アナリスト)。仮に創業家側の目論見通りに出光が独立路線に転じ、なりふり構わぬ販売攻勢に出た場合、「業界の秩序」は崩れるかもしれない。それが業界にとっては避けるべき事態としても、ガソリンなどの価格が下がれば消費者にとってはメリットとなる。

 もっとも、創業家の動きに諸手を挙げて賛成することもまた難しい。会見で紹介された「皆様へ」と題した出光昭介氏のメッセージでは、「異なった経歴の中で成立し働いている人々を、出光大家族の中に加え、(出光社員と)同様に面倒を見ていく事に私は非常に危惧の念を抱きます」と統合反対の理由を述べている。だが、両社の社風を一つにまとめていくことは、統合後に乗り越えるべき課題ではあるにせよ、統合を阻む理由にはなりにくい。この点で創業家側と会社側とでは認識に大きなズレがある。また、需要が縮小する中で、どうすれば出光が自主独立を維持したまま成長を続けられるか、創業家がその具体策を提示しているわけでもない。

 出光と昭シェルは水面下で統合の準備を進めており、「両社の関係部署の社員は週に一回以上、顔を突き合わせて話し合いをしている」(関係者)という。「統合に関するゴタゴタで社員は疲弊している。早期決着したい」と浜田氏は話すが、その「ゴタゴタ」は、現経営陣と創業家との意思疎通ができていれば起き得なかった。大株主、創業家と経営陣との関係はどうあるべきか、そして今回の統合が何のために、誰のためにあるのか。こうした根本的な議論が置き去りにされたままであることが、今回の「ゴタゴタ」の根本的な問題だ。

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