「1人で何でもやる」方式は古い

仕事のしかた、さらには「働くとは何か」という根っこの課題も問うているように思えます。

八代氏:今の日本企業、特に大企業の働き方は「1人が何でもやる」方式です。どんな仕事も嫌がらずにやらないといけない。ただ苦手な部分では生産性が低くなる。反対に複数の企業で、自分の得意とするところだけをやれば、当然、生産性は高まります。

 日本以外の先進国では、専門家が自分の仕事に専念し、それを企業が有機的に組み合わせる「ジョブ型」が主流です。「なんでもやるのが正社員だ」という今の考え方から、正社員といえど自分の得意とする職務に専念する。副業は、「ジョブ型」の雇用へと企業内の働き方を変える大きなステップになると考えています。

反対・慎重な声も少なからずあります。

八代氏:反対する人は「そんな暇があったらもっと会社(本業)のことをやれ」と言うのでしょう。要するに、自分の専門分野だけでなく何でもやれと。それではいくら時間があっても足りず、慢性的な残業の主因にもなっています。逆に決められた仕事で成果を出せば、早く帰って充実した家庭生活をするもよし、夜間のビジネススクールで自己研鑽するもよし、それこそ副業で収入増を図ってもよし。こうした多様な選択肢ができる働き方は、個人の仕事範囲(ジョブディスクリプション)が明確だとやりやすいのです。

確かに副業には、企業や社会に変革を迫る力がありそうですね。

八代氏:これまでの「1人が何でもやる」方式は、過去の高成長期では確かに合理的でした。企業組織の拡大期は、企業のなかで細かく仕事を分けてもすぐに無駄になり、みなマルチの労働者になることが必要でしたから。しかし、現在の名目ゼロ成長が20年以上も続くなかで、欧米型の「自分の専門分野をきちっとやる」という働き方でないと逆に生産性が上がらない時代になっています。

 そもそも「何でもやる」方式は、専業主婦を前提とした働き方であって、奥さんが家事や子育てを全部やってくれるから、夫は何時間も会社で残業しても良いという方式です。だから企業は奥さんぐるみ、家族全体を守るという意味を込めて、長期保障の雇用と年功賃金をパッケージ契約していたわけですね。この仕組みと慣行は、働く女性や高年齢者が増えるなかで見直しが必須です。そのためには、何らかのショック療法が必要であり、副業の存在がそのディスラプター(破壊者)のひとつになると考えています。

 私は、戦後の日本的雇用慣行を「戦艦大和」に例えています。日露戦争の戦艦対決で勝ち過ぎたので、空母の時代の太平洋戦争でもその成功体験にしがみついた海軍の歴史と重なります。日本型雇用も1980年代まではよく機能していたという点、新卒一括採用が若年層の低失業率に寄与しているメリットは認めますが、今後の低成長の時代に機能するとは言えません。日本はもはや「普通の国」になったわけですから、先進国での普通の働き方と組み合わせることが自然なはずです。

企業はアタマを柔らかくして対応しなければいけませんね。

八代氏:人事評価も変わらないといけません。今の人事評価の基本は、もっぱら労働時間です。いまだ残る「残業している人がよく働いている」「定時に帰るようなやつはダメ」という風潮です。定時だろうが残業しようが、明確に定められた仕事の成果で評価しなければ、副業していることが不利に働いてしまいます。これまで「私はこれしかやらない」と主張する人は会社のなかで嫌われてきましたが、個人の専門性が必要な時代には、ジョブ型の働き方が評価される仕組みへと変わるべきでしょう。

 企業が「雇用を保障する」と言ったところで、今年入った新人が定年退職するまで保障できなくなりました。今後も低成長の時代が続きます。だからたとえ会社がつぶれても、労働者が困らないような専門的スキルを身につけさせる責任こそ、企業にはあるのです。例えば最初の10~20年間は、従来の「何でもやれ」の働き方で多様な訓練を身に着け、その後は自分の専門分野に特化した働き方と組み合わせれば、定年にこだわらず働き続けることができるようになります。副業はこうした新しい働き方と親和性が高いといえます。