中国はRCEPの中身が生み出す経済効果よりも、国の囲い込みに関心がある。中身の薄いものでいいので早く作りたい。知的財産権や電子商取引などの分野で余計なルールを作られて活動が縛られることを警戒する。国家主導という異なる価値観を抱く国として当然の反応だ。逆に中身の薄いものになりすぎることを警戒する日本との綱引きで膠着状態が続いている。

 そうした中国も最近、前向きな姿勢に転じてきた。電子商取引、知的財産権、国有企業などを議論すること自体は受け入れている。

 先般の閣僚会合で年内合意を目指すことで合意した。これを日本のメディアは「日本が積極方針に転換した」と報道しているが、これは明らかに誤りだ。姿勢を変えたのは中国なのだ。理由は2つ。

 米中貿易摩擦が激化し、米国以外の国々との経済関係を強化する必要が大きくなってきたこと。そしてもう一つはTPP11が来年にも発効する見通しになり、焦りがあることだ。タイ、インドネシア、韓国、台湾などの新規加盟希望も控えている。

 まずTPPを固める。これに引っ張られる形でRCEPのルールの中身の議論が進展する。そういう相互の連動性を視野に置いたシナリオを日本は描いていた。そしてその思惑通りに展開しているのだ。

 ただ中国が前向きの姿勢に変化しても、ルールに関する意見の隔たりは依然として大きい。頑固なインドの存在もある。「年内合意を目指す」としたのも、政治日程による。来年になると、タイやインドネシアで国内選挙があるので、譲歩が難しくなって漂流してしまいかねない。決して合意の見込みが出てきたからではない。

 今週、精力的に交渉が行われているので、その結果次第ではあるが、まだまだ額面通り受け取れないだろう。

ルール重視の価値観外交の軸をぶらすな!

 日欧EPAやTPP11は昨年の日本外交が生み出した大きな成果だ。これまでの外交当局任せでは局面打開できなかったところ、官邸が舵を大きく切った結果でもある。これは正当に評価すべきだろう。

 他方、直近では鉄鋼問題で米国を、知財問題で中国を、WTOに提訴すべきであるにもかかわらず、今日まで踏み出せないでいる。官邸の対米配慮、対中配慮が背景にあるようだ(拙稿「“対米配慮”“対中配慮”は日本の自己満足だ」2018.6.8 )。

 ルール重視の価値観外交で国際秩序を支えることを第一義とするならば、日本は言行一致でなければならない。EUが対中、対米ともにWTO提訴している。こうしたEUと足並みをそろえなければ、連携を呼びかける日本の姿勢をも疑われよう。何を重視すべきかの軸がぐらついていては、国際秩序を主導する資格はない。