他人の価値観に頼るむなしさ

犬養毅・元首相が遺した一字を、孫の犬養道子さんは再び未来の日本へ託した

 何を是とし、何を否とするのか。人間の価値観とは本来、他人に依拠するものではない。

 民主主義もまた根源的に異なる意見の存在を前提にしている。個人の思いがあって初めて、政党はそれを束ねる求心力を発揮できる。逆に言えば、確固たる信念を貫く「個」がなければ、人は執拗に同調を求めてくる世間の空気に流されやすくなる。

 この特集で本誌は、終戦前に生を受けた方々に話を聞いた。彼らの多くが口にしたのは、有限である命の貴さと、その命を他人の価値観に頼って生きることのむなしさだ。

 生命と自由。その価値を、戦争を知る世代は身をもって学んだ。世間に流布する価値観を疑う目を持ち、自らが信じるところを為す人生を歩んだ。

 それが前例の無いイノベーションを生み、ぶれない経営理念を持つ頑強な企業体を築いてきたことは、間違いない。戦後リーダーたちの「遺言」が示すことは、時代の天窓を開くものは、自己の可能性を堂々と追求する個をおいてほかにはないということだ。

 自由な個は誤りを犯すこともある。だがそれを恐れるあまり、個人を型に押し込めれば、社会は息苦しくなる。そんな状態から、「恕」と信念を併せ持つような指導者は生まれえるだろうか。

 終戦からじきに70年が過ぎる。戦後の変遷について語れる人は、もう決して多くない。混迷を抜け出せない我々が受け継ぐべきものは、戦争の悲惨さだけではない。復興と成長の武勇伝でもない。かくしゃくと自らの道をゆく、彼らの生き様そのものだろう。=敬称略