死はグッバイではなくシー・ユー・アゲインです

増大が続く医療費について、医学界と経済界を代表する2人が話し合った(「日経ビジネス」2015年6月1日号特集より、年齢は対談を行った2015年当時。写真:山田 哲也)

 高齢化社会に突き進む日本では老人の医療費増大が止まらない。だが、老人を悪者にしても何も始まらない。医学界と経済界を代表する2人の賢人は、「医を仁術に終わらせてはならない」と声をそろえた。国民医療費は2025年に50兆円を超え、そのうち6割以上を65歳以上の医療費が占める見込みだ。

日野原重明氏:医療界だけではなく、社会全体で考えるべき問題だと思います。まず無駄な医療をやめることです。医療を営業と考える医者は延命治療に夢中になりがちです。患者や家族には「長生きは良いことだ」という思い込みがあり、医者も延命した方がもうかるからです。しかしチューブにつながれて最期を迎えることが患者や家族にとって本当の幸せでしょうか。社会的にみれば膨大なコストがかかっている。

 お年寄りに「長生きするな」と言っているのではありませんよ。人生の質を言っているのです。私は日本におけるホスピスの普及に力を注いできました。ホスピスでは、天から与えられた命を、最後まで質高く全うすることに重きを置きます。患者には「最期が来ましたよ」と自覚してもらい、「また天国でお会いしましょう」と家族とお別れしてもらいます。グッバイではなくシー・ユー・アゲインです。

 延命治療をやめれば、住み慣れた自宅で最期を迎える人が増えるでしょう。病院より、自分がずっと生きてきた場所で最期を迎えたいと望む人は多いのではないでしょうか。これを実現するには医者も患者も家族も考え方を改めなくてはなりません。死に抗うのではなく、死を受け入れる考え方が必要です。

 欧米ではこうした考え方の下、ホスピスや在宅医療の体制が整備されています。努力すれば日本でも、コストを抑制しながら医療の質を上げることは可能だと思います。そのためには教育から変えていかなくてはならない。

 ルネ・サンド(1928年に国際社会福祉協議会を設立したベルギーの医学者)は「国民の参与なくして国民の健康は作られない」と言っています。まず社会の中のいろいろな層の人々による協力体制を作る必要があります。「真の健康社会を作る」ことを国民の総意にしなくてはならない。

稲盛和夫氏:サンドの言葉は経営にも通じると思います。全従業員の参与がなければ良い経営は実現できません。

 私が再建に関わった日本航空(JAL)を例に取ればパイロット、客室乗務員から整備のエンジニア、荷物を運ぶ人、機内食を作る人、機内や空港を掃除する人まで、すべての人がそれぞれの役割をきちんと果たし、なおかつ自分の持ち場で収益を考えてもらう必要がありました。

 医療も同じだと思うのです。ドクターから看護師さん、食事を担当する人まで、医療に関わるすべての人が、どうすればコストを上げずに、患者さんに良い医療を提供できるか。皆で考えるところから始めたらいいのではないでしょうか。

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100歳を越えても挑戦し続ける力はどこから来るのか?

これからの人生を朗らかに生き、働くためのバイブルです。生き方に迷う定年前後のビジネスパーソンだけでなく、ますます元気にこれからの人生を楽しみたいという方々にも、おすすめします。

≪主な内容≫
【 序章 】 人間 日野原重明
【第1章】 「シニア」は75歳から、74歳は「ジュニア」です
【第2章】 「よど号事件」で生き方が変わりました
【第3章】 日本の憲法と聖書には同じ精神が流れています
【第4章】 健康な人がどう老いていくか この問題が重要になると考えました
【第5章】 疲れたなどと言っている暇はないのです
【 対談 】 日野原重明先生×稲盛和夫さん 「医を仁術に終わらせてはならない」