成人病を「生活習慣病」と言い換えるように提言

全国を飛び回る生活を送っていた日野原重明氏。東京・世田谷の自宅にいるときも、熱心に執筆に取り組んでいた(写真:村田 和聡)

 「政府は75歳以上のお年寄りを後期高齢者などと呼びますがね、あれはダメです。老人という言葉には『人生経験を重ねた思慮深い人』という畏敬の念が入っている。中国語で立派な人を『大人(ダーレン)』と呼ぶでしょう。あれに近いニュアンスですね」
 「一方で、高齢者という言葉には『物理的に年を取った人』という意味しかない。おまけに『後期』などと線引きをする。あれはお役人の発想ですよ。そう呼ばれた人たちがどう感じるか、人の気持ちを考えていない」
 「私は、75歳以上のお年寄りを『新老人』と呼びたい。世界のどこよりも早く超高齢化社会に入った日本の75歳以上は、国民の寿命が延びたことによって生まれた新しい階層だからです。新老人たちが生き生きと活躍する社会を作ること。それこそが私に与えられたミッションだと考えています」

 「後期高齢者」を「新老人」と呼び換える。「たったそれだけのことで何が変わるのか」と思われる方が多いかもしれない。しかし言葉には人々の考え方を変える力がある。日野原氏はかつて、言葉による日本人の意識改革に成功している。

 「昔は糖尿病や心疾患、脳血管疾患のことを『成人病』と呼びましたね。そう呼ぶと患者さんたちが『成人になったのだから、成人病にかかるのは仕方ない』と思ってしまう」
 「しかし、こうした病気は食生活や日頃の運動によって予防できるし、治癒もできる。生活習慣が原因なら、それを改めればよいのです。『成人病』を『生活習慣病』と呼び換えるだけで、人々の意識は変わるのです。だから公的な文書でもそう呼び換えるよう、政府に働きかけました」

 厚生省(現厚生労働省)は1980年頃から糖尿病などを「成人病」と表記してきたが、日野原氏らの提言を受け入れる形で90年代後半から「生活習慣病」に呼び変えた。

 生活習慣病という言葉は日本人の間に広く定着。それを予防するために多くの人が自分の体重や血圧を気にかけ、適度な運動を始めたり、食生活を改善したりし始めた。