
7月15日夜、トルコ国営放送(TRT)が放送中の天気予報が、突如として中断された。そしてアナウンサーが登場。軍が全権を掌握したことと、国民の外出を禁止することを伝える声明を読み上げた。声明は 「Yurtta Sulh Konseyi (祖国の平和協議会)」と名乗る組織によるもの。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が率いる現政権によって民主的で世俗的な法が侵されていることを危惧している旨を表明した。
これとほぼ同時に首都アンカラ、最大都市イスタンブールで国軍兵士が道路、橋、空港を封鎖。民間の報道機関へも侵入した。これに対し、ビナリ・ユルドゥルム首相は「軍による不法な行為が発生」と強く非難。エルドアン大統領は休暇中のマルマリスから国民に対し、「クーデター」に反対するため町へ出るよう訴えた。
現地メディアは、クーデターに抗議するために戦車によじ登ったり、トルコ国旗を持って広場に集まったりする市民の姿を伝えた。一時はトルコ軍の戦闘機がアンカラ上空を低空飛行し、首都中枢にある軍施設や国会議事堂を破壊するなど、情勢が緊迫した。
しかしおよそ12時間後、拘束されたと伝えられていた参謀総長(トルコ軍のトップ)に代わり権限を持った参謀総長代行が「クーデターの試みは失敗に終わった」と宣言。事態は収束に向かった。
再び発言を持ち始めた国軍
トルコ国軍は陸、海、空の三軍から成り、戦事にはジャンダルマ(保安隊)とコーストガードが軍の指揮下に入る。三軍のトップである参謀総長は大統領が任命する職で、国家安全保障会議のメンバーでもある。同会議は大統領、首相、主要大臣からなる最高意志決定機関だ。
トルコの国軍は国民の信頼と支持を集める存在だ。トルコ共和国の建国に尽力したことが大きな理由。建国の父として今なお国民慕われるケマル・アタチュルクも軍人出身であった。国是である世俗主義の擁護者として、イスラーム勢力が過度に伸張するのを抑制すると同時に、国家の秩序維持と安定に貢献してきた。
トルコ軍はこれまでも政治に介入し、政治的影響力を示してきた。たとえば、1997年にはイスラーム色の強いネジメッティン・エルバカン政権を退陣に追い込んでいる。
エルドアン大統領を戴きAKP(公正発展党)を与党とする現政権は、軍の権限を徐々に剥奪してきた 。例えば、EUに加盟するための条件を満たす民主改革の一環と称して、国家安全保障会議において文民を増加させる一方、軍人の割合を低下させた。2010年にはクーデター計画に関与したとして大量の軍人を逮捕(エルゲネコン事件)。これにより軍の政治的影響力は激減した。
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