
高級自動車大手の独アウディが7月11日に発表した、旗艦車「A8」の新型モデル。世界で初めて「レベル3」に相当する自動運転機能を搭載し、スペイン・バルセロナで開催された発表会には各国から2000人以上の報道関係者が集まった。
日米欧が定義する自動運転のレベルは、1から5まで分かれている。これまで運転手が常にハンドルを握っておく必要があるレベル2と、自動車が主体となって運転するレベル3の間には、“深い谷”が存在すると言われてきた。メーカーは自動運転の技術要件を満たすことはもちろん、自動運転時に事故が発生した場合の責任をどう想定するかなど、従来にないリスクを問われる可能性があるからだ。
このため、レベル3に相応する自動運転技術を保有していても、法整備などの機が熟すまで「待ち」の姿勢を取る自動車メーカーも少なくない。その中で、いち早く市販モデルを投入したアウディ。同社の自動運転開発責任者、ミルコ・ロイター氏に狙いと勝算を聞いた。

新型「A8」の自動運転機能が、世界から注目を集めています。
ロイター:今回、世界で初めて「レベル3」の自動運転機能を持つモデルを発売することで、アウディはドライバーに新たな「可処分時間」という付加価値を創出したいと考えています。
ご案内のように、レベル2までの自動運転では、人は常にハンドルを握っている必要があります。当然、運転中は何か別のものに意識を振り向けることは不可能でした。しかし、ハンドルから手を離すことが許されるレベル3以上では、ドライバーが何か別のことをできる時間が創出されます。
従来は使えなかった時間を自動運転技術によって解放し、その結果生まれた時間ーー我々は「25時間目」と呼んでいますが、この時間の過ごし方が、今後の競争の土俵になっていくと考えています。それに向かって、アウディはいち早く自動運転を進化させ、先行して経験を積んでいく経営判断を下しました。だからこそ、どのメーカーよりも早く、レベル3を市販できるモデルを投入したのです。
具体的には、どのような場面でレベル3の自動運転が可能になりますか。
ロイター:ドライバーが乗っていなくても、クルマが自動的にステアリングやアクセルを駆使して駐車場におさまる「リモートパーキングパイロット」「ガレージパイロット」などがありますが、目玉となるのは、「トラフィックジャムパイロット」と呼ぶ渋滞混雑時の自動運転です。時速60km以下で走行している際、運転手がセンターコンソールにあるAIボタンを押せば、A8が運転操作を代行します。
中央分離帯がある高速道路、という条件はつきますが、自動運転中は、ハンドルを完全に放した状態でビデオを見たり、同乗者との会話を楽しんだりすることができます。さすがに、眠ることはできませんが、常にハンドルを持っていなくてはならないストレスからドライバーを解放します。
速度が60km以下というのには理由がありますか。
ロイター:自動運転状態から、再び運転手にコントロールを取り戻す際の時間を考慮した結果です。我々の想定では、この時間に約10秒は必要と見ています。もし速度が上がれば、この引き継ぎにかかる時間が短くなってしまい、事故のリスクが高まると判断しました。
さらに、自動車を高速化した場合、安全性を高めるためにセンサーで取得するデータをより増やす必要があります。そうしたデータ処理に必要なチップのパワーなども勘案して、まずは時速60km以下にしました。
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