“毎週3億5千万ポンド”のインパクト

 日頃、バナナの形や靴屋が保管できる接着剤の量までブラッセルにいる約3万人のEU委員会の官僚が決めるのは無駄な二重行政で主権の制限であると感じていた人々は、毎週3億5千万ポンドという数字に「こんなに莫大な額を払っているのか!」と憤った。しかしよく考えてみると、英国の国家予算(歳出)は7720億ポンド(約122兆円、2016年度)なので、この2.4%をEU予算として払っていても不思議はない。ところが、離脱派が真っ赤な大型バスの車体に「3億5千万ポンドをNHSのために使おう」と大書して、全国を回ったこともあり、「毎週3億5千万ポンド」がひとり歩きした。

老人が決めたEU離脱

 年齢別の離脱支持を見ると、18~24歳が27%、25~34歳が38%で、若い層は残留支持が圧倒的に多い。これに対し、55~64歳は57%、65歳以上が60%(出所、The Sunday Times)と、高年齢層ほど離脱支持が多かった。一方、年齢別の投票率は、年齢が上がるほど高く30歳以下が60%台前半、35歳が65%前後であるのに対して、50歳以上は80%程度と非常に高かった。

 開票後に、3億5千万ポンドをNHSや看護師の雇用に回せるというのはあくまでも可能性の話だと離脱派が公約破りをした今、もし再投票をやり、かつ有権者全員がきちんと投票すれば、残留派が勝つ可能性がある。

EU離脱後も金融立国イギリスの重要性は変わらない

 ゴールドマン・サックスのブランクファイン会長兼CEOをはじめとして、各金融機関のトップは「英国を出て行くことは選択肢の一つ」としつつ、要は今後のEUとの交渉次第で、まだ何も決めていないという、至極当たり前のコメントしかしていない。

 英国でユーロ建て証券の決済業務くらいはできなくなるかもしれないが、金融機関が大挙して撤退する可能性は低いと私は考える(英国で銀行免許を取得し、「パスポート」制度でEU域内の他国で出店している場合は、オランダとかドイツで改めて銀行免許を取ればよい)。国際取引契約は英語で作られ、英国法かニューヨーク州法が準拠法で、裁判管轄はロンドンかニューヨークである。これをフランス語やドイツ語で契約書を作り、パリやフランクフルトでの裁判を前提にすることはありえない。

 また金融機関の為替取引なら金融機関同士だけでできるが、商取引、プロジェクト、M&Aなどは、法律事務所、会計事務所、保険、商品取引、海運なども関わってくる。ロンドンには多数の法律事務所、会計事務所、巨大なロイズの保険市場、世界最大のLME(ロンドン金属取引所)、バルチック海運取引を中心とする屈指の海運市場などがある。

 むしろEUが導入を決めた金融取引税や、すでに導入した金融機関のボーナスの上限に関する規制を回避したりすることで、逆にシェアを拡大するチャンスもある。

 また英国に来ている外国企業は金融機関に限らず、EUだけでなく、中近東とアフリカをカバーしており、EUを離脱してもこの点の重要性は変わらない。