「ユーロ」採用国のEU離脱はハードルが高い

 英国はユーロ圏ではないので、EUから離脱しても従来どおりの自国通貨を使い続けることができるが、ユーロ圏の国がEUから離脱するとなると、ユーロを使わずに自国通貨を使うことになる。

 ユーロ圏の経常収支赤字国は、過去の赤字分だけ外国から借金をしていると言える。現在は自国通貨でもあるユーロで借りているので、貸し手も比較的安心しているが、ユーロ圏を離脱するとなると、「経常収支赤字国が巨額の外貨を借りている」ことになる。

 これは貸し手にとって不安な状態であるので、貸し手からの返済要請が相次ぐことになる。外貨を購入して返済しようとすれば、外貨が高騰し、輸入物価が高騰し、極度のインフレになるかもしれないから、外貨の返済を待ってもらうことになる。

 仮に既存の債務の返済を猶予されたとしても、その後に発生する毎年の経常収支赤字分は外貨を購入する必要があるため、早晩、外貨が高くなり輸入インフレになることは免れない。それを避けるとすれば、厳しい引き締めによって景気を悪化させ、輸入を減らして経常収支を黒字化するしかないが、それには大量の失業者の発生などを覚悟する必要がある。

 ギリシャが債務問題に苦しめられながらもユーロ圏を離脱できないのは、こうした悪影響を怖れているためである。そうであれば、ギリシャ以外のユーロ圏経常赤字国も、簡単には離脱しようとしないであろう。

 一方、経常収支黒字国も、ユーロ圏から脱退すると、自国通貨が高騰してしまうので、ユーロ圏に留まるインセンティブは大きい。ユーロ圏にとどまっている限り、自国の経常収支黒字と他国の経常収支赤字を合算してユーロの為替相場が形成されるため、それほどの自国通貨高に悩むことはないからである。

 こうして考えると、ユーロ圏は参加国に大きなメリットを与えているように見える。経常収支赤字国は借金ができるし、黒字国は輸出が容易になるためである。しかし、これは麻薬のようなものかもしれない。永遠に続けるわけにはいかないかもしれないし、続けるほど巻き戻しのコストは大きくなるからである。余談であるが、例えばアジア共通通貨圏などを検討する際には、こうしたことも考慮する必要があろう。

日本経済への影響も限定的

 欧州経済や世界経済にそれほどの打撃がなさそうであるため、日本経済への打撃は小さいと思われる。仮に欧州経済に大きな打撃があったとしても、日本経済は日米関係ほどに欧州との関係が緊密であるわけではない。日本と欧州の産業構造は似ているので、お互いに得意の製品が同様で輸出入が行われにくい。こうしたことから、日本への打撃は軽微だろう。

 また、リーマン・ショックの時には、世界の基軸通貨であるドルが大幅に安くなり、円が高くなった。国際的な取引の多くはドル建てで行なわれているので、ユーロやポンドが安くなるのと、米ドルが安くなるのとでは影響の大きさがまったく異なるのである。

 ちなみに、リーマン・ショックの後、米ドルが安くなった理由は三つである。一つ目の理由は、世界的な経済金融情勢の混乱を目の当たりにして、投資家たちが「リスク・オフ」になり、「安全資産」である円を買う動きが活発化したことである。これについては、今回も投資家がリスク・オフになっているという点で共通しているが、以下の残りの二つは状況が異なっている。

 リーマン・ショックで米ドルが安くなった理由の第二は、米国が景気悪化によって金融を緩和し、日米金利差が縮小したことである。それに対して今回は、米国の景気が比較的好調で、金融は緩和よりも引き締めの方向にある。

 リーマン・ショックで米ドルが安くなった三つ目の理由は、米国と欧州の経済金融情勢が混乱していて、日本円が文字通りの「安全資産」として買われたことである。これに対して今回は、欧米に比べて特に日本が安全だというわけではない。前回は円が安全資産と呼ばれるに相応しい理由があったが、今回はないのである。

 こうした事を考えると、今回はリーマン・ショック時と比べて、ドルが安くなる理由は乏しいのである。