打撃を受ける企業もあれば、恩恵を受ける企業も

 今後、英国と欧州大陸との間の輸出入には関税がかかるようになり、英国の輸出産業は打撃を受ける可能性はある。しかし一方で、これを機に英国の消費者が欧州大陸製品から英国産の製品に乗り換えるとすれば、英国経済への影響はそれほど大きくないかもしれない。ほかにも、為替の変動によって、多様なシナリオが考えられる。取引の条件が変わることによって、当然ながら、打撃を受ける企業と恩恵を受ける企業があるわけで、打撃を受ける企業にのみ着目して、マクロ経済に大打撃が生じると考えるのは誤りである。

 本件に関して言えば、関税復活で英国の輸出企業が打撃を受けることは誰にでもわかる。しかし、誰が恩恵を受けるのか現時点で不明であるため、そちらは語られない場合が多い。誰かが恩恵を受けるのであれば、マクロ経済を論じる際にはプラスとマイナスの両方を考えるべきなのである。

「リーマン・ショック」の時とは、事情が異なる

 2008年には「リーマン・ショック」によって世界経済は大混乱に巻き込まれたが、今回の影響をそれとの比較で見ることには大きな違和感がある。その一つは、今回は「バブル」が崩壊したわけではない、ということである。リーマン・ショックの時には、バブル崩壊によって発生した巨額の損失を誰が負担し、それによって誰が倒産するのか──という状況の中で、「誰(どの企業)が倒産するかわからないから、他人(企業)に金を貸すのはやめよう」と皆が考えた。これにより、世界的に金融が収縮した(世界中で金の貸し借りが行なわれなくなった)のである。

 しかし今回は、特定の誰かが損をしたわけではないし、特定の誰かが倒産しそうだというわけでもない。短期的には国際金融市場のプレーヤーたちが先行き不透明感から与信を手控えることも考えられるが、影響は限定的かつ一時的であろう。

 リーマン・ショックの時は、震源地が米国であったことが混乱を大きくした要因であった。米国は世界中から巨額の輸入をしているため、米国の景気悪化は世界の輸出企業に大きな打撃となったのである。それ以上に影響が大きかったのは、基軸通貨である米ドルの信用が収縮したことで、世界中に甚大な影響を与えたことである。

 「金融は経済の血液」と言われるように、金融の流れは普段はあまり意識されないが、ひとたび流れが止まってしまうと、経済全体に甚大な被害を及ぼすことになるのである。それに対して今回は、仮にポンドやユーロの資金貸借が滞るようなことになったとしても、国際的な取引の多くはドルで行なわれているし、ポンドやユーロで行なわれている取引も一時的にドルで決済をすることも可能である。「全身の血流が止まってしまう」ようなことにはならないであろう。

英国が抜けてもEUは崩壊せず

 英国がEUを離脱したことで、他にもEUを離脱する国が出て来て、EUが崩壊してしまうという論者もいる。筆者は「仮にそうなったとすれば、国際政治の面では大問題であろう。それでも経済面での影響はそれほど大きくない」と思っている。それ以前に、EUが崩壊すること自体が考えにくい。

 そもそも欧州大陸と英国の間には、心理的な距離があると、かねてから言われている。例えば、大英帝国時代の栄光にしがみついて孤高を保とうとしている英国は、欧州大陸と統合してEU本部の指令に従うことを望まない──云々といったことである。そうした背景をふまえると、「英国が抜けたから、ほかの大陸諸国も離脱する」と短絡的には考えにくい。

 英国のEU離脱に際して、とりわけ重要なことは、英国の通貨が「ユーロ」ではなく「ポンド」であることだ。「ユーロ圏」でなかったため英国は簡単に離脱できるが、一方、ユーロ圏諸国の離脱のハードルははるかに高い。非ユーロ圏諸国が英国に追随して離脱する可能性は否定しないものの、ユーロ圏諸国の離脱は簡単ではないのである。