
英国のEU離脱で騒ぎすぎる市場
英国のEU(欧州連合)離脱が決まり、金融市場は大荒れである。世論調査からもブックメーカーのオッズ(賭けが的中した場合の倍率)からも、離脱の可能性は決して低くないと考えられていたが、金融市場は「それでも最後は英国民の理性が勝つだろう」と考えていたようである。
そこに「予想外の大事件」が起こり、金融市場が大きく動いたのである。しかし、冷静に考えて、英国がEUを離脱することがそれほど重大なことだろうか? 「リーマン・ショックに匹敵する危機」といった見解もあるが、本当に世界経済や日本経済は大混乱するだろうか? 確かに国際政治や外交の面では様々なことが起こり得るのかもしれない。それはともかくとして、経済面への影響に関しては筆者には限定的なものであるように思われる。
EUは英国に多くの恩恵を与えていたのか
そもそもEUは、英国経済に対しそれほど多くの恩恵を与えていたのか? かつて英国がEU(の前身)に加入した時、経済面で劇的な改善がもたらされたのか? 確かに人や物の移動が便利になったことで、多少のメリットはあったはずだが、離脱した途端、世界不況をもたらすほどの膨大な恩恵があったのかというと、筆者はそうは思っていない。
過去に「自由貿易協定」が締結された事例を調べてみると、爆発的なメリットが生じたという話は、少なくとも先進国では聞いたことがない。「自由貿易協定」のたぐいが大きな効果をもたらすのであれば、世界中が自由貿易協定締結の機運で満ちているはずであるが、実際にはそうなっていない。冷静に考えれば、英国にとってはEUのメリットはさほど大きくないので、離脱の打撃もそれほど大きくないはずである。大騒ぎをするようなものではないのである。
今後、注目していくべきことは、英国とEUの間で新たな協定が締結されるはずだということである。仮に英国とEU諸国との関係が全く切れてしまうとすれば、影響は大きいかもしれないが、言うまでもなくそんなことはあり得ない。経済的に密接な関係は続くだろう。今回、英国人の多くが問題としたのは、英国に自由に人(移民)が流入することであって、自由な貿易ではないのである。仮に「相互の人の往来は制限的に認め、相互の物の往来は自由のままとする」といった協定が締結されれば、欧州経済にも世界経済にもほとんど何も影響が生じないかもしれない。
なお本稿では、今後、英国とEU間の物の往来にも、ある程度の制限が設けられると仮定して考えて行くこととしたい。もしEUが制限について柔軟に対応すると、加盟国間に不公平感が生まれてしまうはずだからだ。
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