直ちにEUの終わりが始まるわけではない

 最後に、EUの先行きについて考えてみたい。国民投票を実施するに際し、事前に英国がEUに対して行った権限回復交渉では、EU側は英国を含む各国の主権を強めることに合意した。EU側の妥協の背景の一つは、英国がEUを離脱した場合、各国内のEU懐疑政党が更に伸長し、EUが揺らぐことへの危機感があったと考えられる。現在、EU懐疑政党の勢いはかつてないほど強い。そこに加わった今回の英国のEU離脱は、1992年にデンマークがマーストリヒト条約の批准を国民投票で否決した「デンマーク・ショック」以来のインパクトをEUに与えることになろう。

 しかし筆者は、「ブレクジット・ショック」によって、直ちにEUの終わりが始まるとの立場は取っていない。独仏において、EU懐疑的な政党が政権を握る可能性は今のところ低い。フランスでは、大統領選挙は単記2回投票制であり、初回投票で50%の得票を得る候補がいなければ上位2名の決選投票となる。仮にEU懐疑派の国民戦線党首であるルペン氏が決選投票に進んだとしても、決選投票では反ルペン派が結集し、ルペン氏は勝てないと予想される。ドイツにおいても、ユーロに懐疑的な政党である「ドイツのための選択肢」は、議席を獲得するのに必要な最低得票率(5%)を得て、議席の獲得が予想されるものの、政権入りするまでには至らないだろう。

 これまでEUが成し遂げてきた成果は大きい。第一に、EUは、これまで域内の平和を維持する役割を果たしてきた。第二に、財やサービス取引の自由移動など単一市場の構築は、全ての加盟国にとり大きなメリットである。特に若い世代にとり、EU域内で自由に学び、就職し、居住するという権利は、既に当然の社会インフラとなっている。共通通貨ユーロも同様である。今回の英国民投票における世論調査をみても、若い世代は明確にEU残留支持を示している。

 EUは、今後若い世代に対して、更なる統合の成果を示す必要がある。若い世代がEUへの期待を失えば統合のモメンタムは失われる。その意味では、EU域内において若年層の失業率が高い現状は非常に危惧される。若者の雇用促進に向けた規制緩和や、需要創出による雇用機会の拡大が急務だ。英国離脱後のEUに求められるのは、保護主義の復権では無く、国家、都市、企業、労働者のダイナミズムの復活を通じた経済成長であろう。英国民がEUに突き付けた課題は重い。