ソフトバンクグループは21日、同社のニケシュ・アローラ副社長が再任されず、任期満了により退任すると発表した。翌22日に開催された株主総会で退任が確定した。株主総会で孫正義社長は「おそらく10年近くは社長のまま行きたい」と心中を明かし、アローラ氏退任の責任はすべて自分にあるという考えを示した。社外取締役である、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長は、孫社長の判断を強く支持する姿勢を示したが、株主総会前日の主要経営陣の変更など、コーポレートガバンス(企業統治)の面では問題がある。
孫氏はアローラ氏の経営手腕に強く期待していたが・・・(写真:Bloomberg/Getty Images)
アローラ副社長は1968年2月生まれ。通信業界担当のアナリストから通信事業者のT-Mobileを経て、2004年12月にグーグルに転じて、2011年1月からは同社の最高事業責任者に就任。2014年9月にソフトバンクに入り、有望なインターネット企業への投資を推進してきた。2015年6月から副社長を務めていた。
株主総会の冒頭で挨拶に立ったアローラ副社長は、「孫社長が若返られて5年、10年とソフトバンクグループを率い続ける情熱とエネルギーを取り戻した」と突然の退任の理由について説明。今後も顧問として同社をサポートする意向を示した。
株主総会で議長役も務めた孫正義社長は、「19歳のときに50代までにビジネスモデルを固めて60代でバトンタッチをしたいと決めていた。今回の決断では彼(アローラ副社長)が一番の被害者で、60歳で(社長職を)渡すという確約はなかったが、そのつもりだった。しかし、今は最低5年、おそらく10年近くは社長のまま行きたいと決意している」と述べた。アローラ副社長の退任の責任はすべて自分にあるという考えを示したものだ。
「大変貴重なアドバイスを頂いた」
永守氏㊧、柳井氏とも、創業経営者として強いリーダーシップを発揮している(写真 左=菅野勝男、右=的野弘路)
総会では事前に社外取締役のファーストリテイリングの柳井正会長兼社長や日本電産の永守重信会長兼社長と相談し、「大変貴重なアドバイスを頂いた」(孫社長)と、2人のベテラン経営者から、その決断を後押しされたことを説明した。
株主総会で、孫社長から発言を求められた柳井会長は「孫さんみたいな人はいない。60歳になってもいないのに引退(を考える)? 冗談じゃないぞと申しあげた」。同じく永守会長は「経営意欲と年齢は関係ない。孫さんは、そもそも絶対に辞めないと思っていた。69歳になったらまた10年やりたいと言いますよ」と、60歳で社長職を譲らない心変わりは事業意欲の高い起業家として当然のことであるという考えを示した。
現在、67歳の柳井会長兼社長は2002年に玉塚元一氏にファーストリテイリングの社長職を譲ったが、05年に社長職に復帰している。ファストリを去った玉塚氏は現在、ローソン会長だ。一方、71歳の永守会長兼社長は、自動車部品メーカーのカルソニックカンセイ社長で、日産自動車の常務執行役員に内定していた呉文精氏を招へいした経緯がある。永守氏は14年には呉氏を副社長兼最高執行責任者(COO)に昇格させた、呉氏は翌15年にはCOO職を解かれ日本電産を去った。呉氏は2016年6月にルネサスエレクトロニクスの社長に就任する予定。孫氏と同様に、柳井氏、永守氏ともに、強力な個性を持った創業者だ。さらに共に有力な後継者候補が、会社を去るという「離別」を経験しているところも似ている。両氏が孫氏の気持ちに寄り添うのは、ある意味、当然と言えるだろう。
アローラ副社長退任という孫社長の今回の決断は、株式市場では受け入れられたようだ。6月22日の日経平均株価は前日比で103円39銭安い1万6065.72円。騰落率は0.64%のマイナスだった。一方のソフトバンクグループの株価は前日比で152円高の5994円。騰落率は2.6%のプラスだった。株主総会で、14人が質問に立ったが、そのうちアローラ副社長退任について、問いただしたのはわずか1人だった。
総会で孫氏は、懸案だった米の通信会社、スプリントの営業利益が2015年度に過去9年で初の黒字化を果たすなど業績が堅調に推移していると、強調した。国内通信事業については、フリーキャッシュフローを売上高で割った比率が17%と世界の通信会社の中で最も比率が高いと、述べた。経営全般について、「言うのは簡単だが、実現するのは難しい」と孫社長は繰り返したが、経営の実行力への強い自信がにじんでいた。
企業統治には問題残す
本来であれば、有力幹部の突然の退任は経営への不安を高めるはずだが、孫社長の圧倒的なプレゼンテ―ション能力で株主の不安を、払拭した印象が強い。
もっともアローラ副社長退任に至るまでの経緯は、日本を代表する上場企業として、反省が必要だろう。当日の株主総会ではアローラ副社長の取締役選任の提案が取り下げられ、7人の取締役が選任されたが、6月2日付けの株主総会招集通知には「第2号議案 取締役8名選任の件」として、アローラ副社長も含めた8人の取締役の再任を求める記載がされ、株主に送付されている。それを株主総会の前夜に撤回するというのは、株主に考える時間を十分に与えたとは言い難い。
機関投資家向けに議決権行使のアドバイスを行っているISSの石田猛行エグゼクティブ・ディレクターは「利益の約3%にあたる報酬を渡してまで会社に招いたのにもかかわらず、これだけの短期間で退任するのは、そもそもの指名のプロセスがどうだったのかという問題も浮上してくる」と指摘する。
ソフトバンクグループは、一部の投資家グループからアローラ副社長の実績や適性に疑問を投げかける書簡を今年初めに受け取っている。20日、ソフトバンクは調査の結果、アローラ氏に何ら問題はない、と発表したばかりだ。
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