安倍首相、「低姿勢」アピールの胸の内
内閣支持率下落に危機感、先行きを占うのはあの二人の女性代表
各種世論調査で安倍晋三内閣の支持率が急落している。学校法人「加計学園」を巡る問題への対応のまずさが要因で、安倍首相は6月19日の記者会見などで自らの姿勢への反省を口にした。東京都議選への影響が懸念される中、低姿勢に転じた安倍首相の胸の内を読み解く。
通常国会の閉幕を受けて記者会見する安倍首相。(6月19日午後、首相官邸 写真:AP/アフロ)
「印象操作のような議論に対して、つい強い口調で反論してしまう私の姿勢が政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省している」
通常国会の閉幕を受けた6月19日の記者会見。安倍晋三首相が冒頭、口にしたのは、学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画を巡る問題などに関する自らの姿勢や発言に対する反省の弁だった。
自らの姿勢に「反省」
さらに「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の文書が追加調査で判明したことに関して「対応が二転三転し、国民の不信を招いたことは率直に反省しなければならない」と語った。
「安倍1強」と称される状況の下、強気の政権運営や発言を重ねてきた安倍首相。それが一転して反省を口にする状況に追い込まれたのは、各種世論調査で鮮明になった内閣支持率の急落と政権の揺らぎへの危機感の現れにほかならない。
日本経済新聞社とテレビ東京による6月16~18日の世論調査で、安倍内閣の支持率は49%となり5月の前回調査から7ポイント低下した。内閣不支持率は6ポイント上昇の42%で2015年10月以来の水準。各種世論調査でも支持率が10ポイント前後落ち込む一方、不支持率の上昇が目立つ。
安全保障関連法を巡り世論の賛否が割れた15年秋以来の厳しい局面を迎えたと言える。
政府・与党内では当時より深刻な状況との見方も出ている。自民党のベテラン議員は「政策の賛否ではなく、安倍首相や政府の姿勢、政権運営への不満が背景にあるとみられ、より根深い問題に直面している」と指摘する。
安倍首相が今回の事態を重く受け止めている理由の一つが、自らへの風当たりの強まりだ。読売新聞の最新の世論調査では、内閣を支持しない理由について「首相が信頼できないから」が48%でトップとなり、2012年末の第2次安倍内閣発足以降で最も高かった。
加計学園理事長と古い友人関係にある安倍首相。「何もやましいことはしていない」と早い段階から周囲に言い切り、国会での野党の追及に自信満々の姿勢で対応してきたことがごう慢と受け取られ、結果として裏目に出た格好だ。
「数におごり、謙虚さを忘れてしまったら国民の支持は一瞬にして失われる」。2014年12月の衆院選勝利後、会見で安倍首相はこう強調していた。
この時の発言は古い自民党的な体質が浮き彫りになってくることへの警戒感から、自民向けの警鐘の意味合いが強かった。今回、自らへの不信感が支持率下落の大きな要因になったことは安倍首相にとって誤算の展開だ。
政権内に亀裂も
安倍首相が警戒感を強めているもう1つの理由が、盤石とみられてきた政権内部に亀裂が生じつつあることだ。
特に危機管理や官僚の掌握を通じて首相官邸主導のキーマンを任じてきた菅義偉官房長官の加計問題への対応を巡り、安倍首相周辺や与党内からも「冷静さを欠いていた」などと公然と批判が出ている。
文科省からの相次ぐ文書流出など「霞が関の反乱」のような動きも顕在化し、安倍首相らは第2次内閣発足以降ではこれまでみられなかった事態に直面している。
「首相は官邸内の不協和音などから短命に終わった第1次内閣の反省を胸に刻んでいる。それだけに身内同士の関係には気をもんでいる」。安倍首相に近い自民議員はこう漏らす。
さらに、自民内では内閣支持率の低下で目前に迫った東京都議選(6月23日告示、7月2日投開票)への影響を懸念する声が高まっている。小池百合子都知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」との全面対決で苦戦を強いられれば、安倍首相の求心力低下につながりかねない。
そうなれば、安倍首相の衆院解散戦略や、2020年の施行を目指すとする憲法改正作業にも影響する公算が大きい。
まずは政権運営の基本に立ち返り、謙虚に支持率下落を受け止める姿を示すことで世論の批判を最小限に食い止める。同時に、自らの振る舞いへの反省を率直に述べることで、菅氏らへの批判を和らげ、態勢の立て直しにつなげたい──。
「『築城3年、落城1日』であり、謙虚に、もう一度、気を引き締めて政権運営に当たりたい」。6月20日の自民党役員会でもこう語った安倍首相。一連の低姿勢のアピールには現状への焦りとともに、こうした思惑が透けて見える。
もっとも、政権の再浮揚へ即効策があるわけではない。安倍首相は19日の会見で、今夏にも内閣改造・自民党役員人事を行う意向を表明。政権運営の主眼を「経済最優先」に回帰する考えを示したうえで、人材投資を新たな看板政策に位置づけると強調した。
人事で求心力を維持し、肝いりの経済政策を打ち出すことで支持層を維持・拡大する。安倍首相は今回もこれまでの経験則に基づき局面打開を図る構えだが、もくろみ通りに事が運ぶのかは見通せない。
20日には加計学園問題を巡り、安倍首相側近の萩生田光一官房副長官が文科省幹部に発言したとされる内容の新たな文書が判明。萩生田氏は文書を全面的に否定したが、事態沈静化に向けた目算は早くも狂い始めている。官邸が防戦に追われる日々が当面続きそうな気配だ。
「衆院選は来年だし、また1つ1つやっていくよ」。会見後、周囲にこう本音を漏らした安倍首相。2018年9月の自民党総裁選後の衆院解散を念頭に、ある程度の時間をかけて政権基盤の安定と支持率アップを目指す考えだが、実は、そうした戦略の先行きを左右しそうな二人の女性政治リーダーの動向を特に気に掛けているとの心境も明かしている。小池氏と、民進党の蓮舫代表だ。
蓮舫代表の続投に期待
先述の通り、小池氏の率いる都民ファーストと自民は都議選で真っ向からぶつかる。それでも安倍首相は今後の政権運営や改憲論議の進展などに向け、小池氏と一定の協力関係を維持しておくのが得策との見方を変えていない。
一方、将来の国政復帰に意欲があるとみられる小池氏にとっても安倍首相や自民党本部との関係を残しておきたいのが本音とみられる。小池氏が都議会自民党との全面対決の構図を作りつつ、安倍首相ら政権幹部に配慮をのぞかせていたのはその証左だった。
だが、ここにきての自民への逆風の強まりでそうした様相が変わる可能性が出てきた。小池氏は都議選告示直前の20日に築地市場を豊洲市場に移転したうえで築地跡地を再開発する方針を表明。移転・残留両派に配慮し、選挙戦に弾みを付ける姿勢を鮮明にした。
都議選で都民ファーストが大きく躍進すれば、その余勢を駆って次期衆院選で東京選挙区などに候補者を擁立し、国政でも自民と対決するシナリオが現実味を帯びてくるかもしれない。
「小池さんが全面戦争を仕掛けてくるのは嫌だね」。安倍首相は最近、周囲にこう懸念を示している。
一方、蓮舫氏に対する安倍首相の見方はだいぶ異なる。簡単に言えば、「民進内で求心力を失い、党勢拡大に役立っていない蓮舫氏にこのまま代表を続けてほしい」と期待しているのだ。
先述の日経の世論調査では、自民の支持率は前回より4ポイント下がり40%になったものの、民進は8%で横ばい。野党第1党が安倍政権に対する批判の受け皿になっていないことが、安倍首相にとって何よりの安心材料になっていると言える。
都議選を前に離党者が続出するなど苦戦が予想される民進内では、都議選後に「蓮舫降ろし」の動きが顕在化するとの見方もある。だが、「党内抗争の繰り返しに所属議員も支持層もうんざりしている」(民進中堅議員)ことなどから、現時点では蓮舫氏の代表続投が有力視される。安倍首相周辺からは「結果的に政権をアシストしてくれることになりそう」との声もあがっている。
「長期政権のおごり」や「説明不足」に対する世論の目は厳しい。丁寧な対応を示しつつ、国内外の山積する課題を着実にこなしていくことで信頼回復につなげていくことができるのか。安倍首相の真価が問われる局面が続く。
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