短期的な経済損失以上に大事なもの

 こうした離脱派の主張をわかりやすく説明したドキュメンタリー映画が下の「BREXIT THE MOVIE」だ。離脱派陣営が制作した作品だが、その信ぴょう性についてはともかく、主張の要点は理解できる。

離脱派陣営が作成した「BREXIT THE MOVIE」。信ぴょう性はともかく、主張が端的にまとまっている。

 彼らのメッセージをひと言で表現すると、離脱派のスローガン「Take back control(主権を取り戻す)」に行き着く。

 残留派にとってやっかいなのは、彼らが「短期的に経済損失が生じてもやむを得ない」と本気で考えている点だ。「正直、短期的な経済損失は覚悟している。それ以上に大事なものがある。自分たちの子供の世代を考えれば、短期的な経済損失を覚悟してでも主権を取り戻さなくてはならない」と、タスティン氏は言う。

 日経ビジネスオンラインのコラムニストである倉都康行氏は「再浮上する1930年代との相似性」の回で次のように指摘した。英国が自国の主権を取り戻そうとする現象は、ハーバード大学の経済学者だったダニ・ロドリック氏が提唱した「世界経済の政治的トリレンマ」によって理解できる。

 世界経済の政治的トリレンマは、(1)グローバル化、(2)国家主権、(3)民主主義の3つのうち2つしか同時に達成できないとするもの。ユーロ圏は通貨統合と経済統合によって(1)と(3)を達成しようとした。その結果、加盟国の主権、すなわち(2)が犠牲となっている。

 主権を抑えこまれているという不満は、ユーロ危機とその延長で起きた昨年のギリシャ危機、そして昨年から大量に流れこんだ難民問題によって、多くのEU加盟国に蓄積されることになった。英国が抱えるEUに対する反発は、これまでに蓄積された不満がいかに大きいかの証左と見ることもできる。

 英国は歴史的に見て、独立心に富み、EUと一体のものではない。英国がEUと距離を置いてきたことは否めない事実だ。

 今回の国民投票の結果は蓋を開けてみるまで分からない。実際、2014年のスコットランド独立を巡る国民投票、昨年の英国総選挙でも世論調査の予想は外れている。このため、有識者や金融関係者の多くは世論調査よりもブックメーカー(掛け屋)の予想を参考にしている。ちなみに、ブックメーカー(賭け業者)のラドブロークスは6月19日時点で、離脱29%、残留71%との予想を発表している。

6月16日に起きたジョー・コックス議員の殺害事件が、国民投票に影響を与える可能性もある(写真:永川 智子)

 6月16日には、EU残留を訴えていた労働党の下院議員、ジョー・コックス氏が殺害される痛ましい事件が起きた。これが最終的な投票行動に何かしらの影響を与える可能性もある。

 運命の投票まであと数日。世紀の投票に、世界の注目が集まる。