一方で、「離脱して経済的にメリットになることは何もない」(キャメロン首相)とし、EU残留することこそが英国の繁栄につながると主張している。実際、財務省以外の主要な機関やシンクタンクの分析も、英国が離脱した場合の経済は悪化するという点で一致する。

 その一例を以下に示す。
OECD(経済協力開発機構):2020年にはGDPがマイナス3.3%、2030年にはマイナス5.1%
CBI(英産業連盟):2020年にはGDPがマイナス5.5%、2030年にはマイナス3.5%(悲観シナリオの場合)
LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス):長期的にはGDPがマイナス6.3~9.5%
NIESR(国立経済社会研究所):長期的にGDPがマイナス2.7%~3.7%(最悪シナリオの場合)

 英国の中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁も、英国が離脱した場合の経済的影響に対する懸念を公の場で表明している。通貨ポンドが急落する可能性があると警告し、景気後退に陥ることを示唆。日米欧の中央銀行と連携し、金融市場の混乱を回避すべく全力を注ぐとするが、「金融政策での対応には限界がある」と述べている。

 英国の残留を望むのは、経済を重視する英国の閣僚や中央銀行だけではない。4月以来、米国やEU加盟国、日本を含む多くの政府首脳が、英国がEUに留まることが望ましいと表明している。

離脱派キャンペーンを率いる前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏(右)。英国がEU離脱を決めた場合、次期首相候補になると言われている。(写真=Christopher Furlong/Getty Images)

 ところが、こうした圧力にもかかわらず、離脱の支持は一向に下がる気配がない。むしろ、投票日が近づくにつれて離脱支持は上昇を続け、6月に入ると残留支持を上回るようになった。英調査会社YouGovが6月17日に発表した世論調査では、残留支持44%に対して離脱支持が43%と、残留派がわずかにリードしているものの、離脱派も依然として一定の支持を保ち続けている。

 ほぼすべてのシンクタンクが将来の経済縮小を予想し、さらに、これだけ国際的な圧力が加われば、残留支持が増えてもおかしくない。しかし、現実には、離脱派の勢いは衰えるどころか、増し続けている。これはどういうことなのか。

「移民問題」は表層的な理由

 一義的には移民問題がある。大量に流入した移民が英国人の仕事を奪っていることに対する反発だ。

 英国中部のリーズ郊外で取材したトラック配送業を営む50代の男性、ポール・フレイズフォード氏は、移民が自身の仕事を苦しめていると語った。同氏が雇うドライバーは全員英国人。しかし、近年は移民が設立した運送業者との料金競争に巻き込まれ、業績が低迷している。「自分の身を削るか、ドライバーの給料を減らすか。どちらにしても、厳しい」とフレイズフォード氏は言う。

 都市部でも、移民に対する反発は根強い。ロンドン近郊の住宅街、ウィンブルドンに住む20代の女性は言う。「今もどんどん移民が流れ込んでいる。英国には、彼らをすべて受け入れられるほどの住宅はない。その割を食うのが英国人というのはおかしい」。

 5月26日には、英政府統計局がこう発表した――2015年12月に英国に流入した移民の数は、過去2番目に多い33万人に上った。「これから起きる可能性がある経済損失よりも、移民によって現実に脅かされている生活の方にリアリティを持っている」と、LSEのトーマス・サンプソン経済学部助教授は指摘する。事実、離脱派が勢いを得た最大の理由は、6月に入って移民問題にフォーカスしたことにある。

 ただし、この移民問題だけで離脱派への支持が高まる理由がすべて説明できるわけではない。離脱派の中でも、より所得水準が高く、より教育水準の高い層は、別の理由から離脱を主張している。端的に言えば、英国の将来の姿に対する憂慮だ。それは、「EUの中にいては、将来はない」という考えである。