特許審査で技術情報の流出リスクも

 こうして特許申請は急増しているが、これをさばくために、大量の特許審査官が必要になる。中国ではその数、1万数千人というから、日本の数十倍だ。今、中国の各地では特許審査のための組織が急速に拡充されている。人員不足を補うため、審査官の中には中国企業からの出向者も多く採用されている。そうすると、審査中の未公開案件の技術情報も駄々漏れになっているのではないかと疑いたくもなる。

 外国企業が中国で事業を展開する際に、中国当局に営業ライセンスを申請すると、さまざまな技術情報を提出させられる。例えば、化粧品では使用する原料の使用比率などの情報を開示させられる。それが中国の競合他社に流れているのではないか、とのうわさは絶えない。

 同様の技術情報の横流しは様々な審査の場面において懸念されるが、特に深刻なのが未公開の特許出願の技術情報だ。

知財の訴訟大国で恣意的裁判も

 さらに中国では知財紛争も増大して、知財の訴訟大国にもなっている。そしてその知財裁判の公平性も問題なのだ。近年、知財紛争を専門とする裁判所を3カ所設立した。表向きの制度は整備されているが、特許違反で訴えた場合、中国企業に有利に土俵が傾くことは覚悟しなければならない。

 中国に進出している外資企業の間では「中国企業の有利さはかつて60対40だったが、最近でも55対45に改善された程度」といった類の会話が交わされている。さすがに上級審に行けば、司法人材の質も高く、恣意的判断も少ないが、下級審ではある意味あきらめに似た覚悟が必要だ。

日本政府も早急にWTO提訴すべき

 こうした中国の知財を巡る動きは中国に進出する日本企業にも深刻な問題を投げかけている。決して米中貿易問題という他人事ではない。中国政府が官民一体となって戦略的に取り組んでいる根深い問題であるだけに、我々も本腰を入れた対応が必要だ。

 日本政府も日中の関係改善という政治的配慮からこうしたことに目をつぶることがあってはならない。米国は通商法301条に基づく一方的制裁だけでなく、同時にWTOに提訴してWTOの枠組みも利用しようという、いわば「両にらみの姿勢」をとる。EUも米国に続いて、中国に対してWTO提訴を行った。日本も米国、EUとともに協調対応することが重要で、早急にWTO提訴すべきだろう。

 また、WTOではカバーされない根深い問題については、例えば、多国間、二国間の特許庁会合などでも、中国を是正に向けてどう誘導していくかも合わせ技で考えて、硬軟織り交ぜていく必要があるだろう。

 同時に日本企業の経営幹部も昔ながらの中国の知財問題のイメージを払拭して、最近の知財を巡る中国の動きに目を向けるべきだろう。痛い目に合う前に、危機感を持って社内の知財部門の問題意識と体制を早急にチェックする必要がある。

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