表向きの美名「知財保護の強化」に危険が潜む

 中国は今や“プロパテント”に大きく舵を切っている。本年4月ボアオ・フォーラムでの習近平国家主席の演説でも、市場開放とともに知的財産権の保護の強化を打ち出している。改正法案も出されており、損害賠償額を最大3倍まで引き上げるなどの強化も含まれている。

 かつて2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟する際には、WTOの知財ルール(TRIPS)の遵守を渋々コミットさせられたものだ。ところが今や、技術大国として自信を持ち、逆に自分たちのために知財保護を強化しようとしている。「知財大国」さらには「知財強国」を目指しているのだ。

 それは中国政府だけではない。中国企業もそれに呼応して、知財強化ための人材獲得に抜かりがない。例えば、通信機器会社のファーウェイは今や5Gの領域における特許のポートフォリオで他社を凌駕している。そのための人材獲得にも熱心で、競合他社のクアルコムから知財トップを引き抜いている。まさに資金力をもって世界で活躍する人材を引き寄せているのだ。

 こうした中国の「知財強国」化をどうみるべきか。「知的財産権保護の強化」という表向きの美名だけで評価していては危険だ。

特許件数が異常に多い背景は何か

 中国の特許出願件数を見ると、驚異的に増加している。

 中国国家知識産権局によると、2016年に受理した特許出願件数は133.9万件、対前年比21.5%増で6年連続世界一となった。そしてそのほとんどが中国居住者による国内出願だ。ちなみに、世界の特許出願件数1位がZTE、2位がファーウェイで、ともに今、注目されている中国巨大IT企業だ。

 もちろんその背景には、中国の目覚ましい科学技術の躍進がある。研究開発費の総額は日本の17兆円に対して42兆円、研究者数も日本の68万人に対して162万人だ(2015年)。この豊富なヒトとカネを使って、量で圧倒している。その結果、引用される重要論文も分野によっては米国を凌ぐまでになっている。従って、特許出願件数も急増するのも当然ではある。

 しかし、その異常なほどの急増に、不自然さを感じざるを得ない。例えば、中国企業への特許出願を政府が大いに奨励している。そのこと自体は大いに結構だが、問題は中国人・中国企業による特許出願には補助金が出されているのだ。企業の出願料の負担を考えると、こうした内外の差別的扱いは許されるものではない。

 しかも、そもそも特許として認められるためには「新規性」の要件が必要なのは当然なのだが、その点の審査が中国・中国企業が出願した案件については甘いとの声もある。外国人・外国企業との間で二重基準(ダブル・スタンダード)になっているのではないかとの指摘も企業の間ではささやかれている。その結果、中国に進出している日本企業は「公知の事実」だと思っていたら、ある日突然、中国企業から特許侵害として訴えられるという事態もあり得るので要注意だ。

 商標権でも中国は出願を補助金で支援して大量出願させ、日本企業で痛い目にあっているのは「今治タオル」など枚挙にいとまがない。これと類似のことが特許でも起こり得るのだ。

 しかも中国企業にライセンス供与して、その中国企業が他の中国企業から特許侵害で訴えられた場合、技術を供与した外国企業がその補償責任を引き受ける義務を負うという、外国企業だけに不利なとんでもない制度(したがって明らかにWTO違反)になっているから厄介だ。

 このように、中国企業が知財の保有量を増やしていることで、競合の中国企業から特許侵害で訴えられるリスクが急激に高まっている。そのリスクを回避するために外国企業は中国語文献の事前調査に膨大なコストを支払わざるを得ない。

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