米国は中国に対して約500億ドルの制裁関税を来月6日から順次発動すると発表した。中国の米国企業に対する知的財産権の侵害がその理由だが、そこには米国の制裁だけでは決して解決しない根深さがある。

米国は中国に対して約500億ドルの制裁関税を7月6日から順次発動する(写真:ロイター/アフロ)
米国は中国に対して約500億ドルの制裁関税を7月6日から順次発動する(写真:ロイター/アフロ)

 米国は中国に対して通商法301条に基づく一方的制裁を来月6日から順次発動すると発表した。約500億ドルの制裁関税である。中国の米国企業に対する知的財産権の侵害がその理由だ。そして中国もこれに対して大豆などの関税引き上げで報復することを表明した。

 

 トランプ氏が仕掛けた「米中貿易戦争」として、米中間の報復合戦に目が注がれている。トランプ氏は中国との貿易赤字削減の交渉を有利に進めるために、制裁関税という交渉カードを得ることにしか関心がない。極端に言えば、制裁理由などは何でもいい。

 

 しかし、それだけに目を奪われていてはいけない。

 

 制裁理由とされている中国の知的財産権を巡る不公正さこそ、深刻で本質的な問題だ。それは多くの日本企業も直面している大問題である。しかも、そこには米国の制裁だけでは決して解決しない根深さがある。

伝統的な模倣品問題と先端技術取得の二層構造

 従来、中国の知財問題といえば、ブランド製品の模倣品やゲーム、意匠のコピーなどが話題になってきた。これらが中国の地方経済の一端を担っていることもあって、その取り締まりの実効性に疑問が投げかけられてきたのも事実だ。これらの模倣品は、未だに横行しており、モグラ叩きが続いている。

 これに対して中国政府が取り締まりの執行を強化することは歓迎すべきことだ。

 しかし、今の中国の知財問題の深刻さはこのような昔ながらの模倣品問題ではない。

 米国の制裁理由に挙げられているように、例えば、外国企業が中国に進出する際、中国企業との合弁が求められ、中国政府によって中国企業への技術移転が強要される。また、中国企業が外国企業から技術のライセンスを受けた場合、その改良技術は中国企業のものとなってしまう。つまり、外国企業の技術をマイナーチェンジしただけで中国企業の技術だと主張されてしまう。外国企業が不利な条件を飲まされる法制度になっているのだ。

 そして、それが製造強国を目指す国家戦略である「中国製造2025」のための手段の一つとなっているから根が深い。海外からの批判は高まっており、中国政府は「知財保護の強化」を打ち出して批判をかわそうと躍起だ。

 ただ、この謳い文句を額面通り受け取っては危険である。米国の制裁理由に挙げられているような問題どころか、むしろ「知財保護の強化」の掛け声の下で、もっと深刻な問題が進行しているからだ。中国で事業活動する企業は、その実態を注意深く見る必要がある。

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