車プレス部品世界最大手、日本殴り込みの秘策
フランシスコ・リベラスCEOに聞く「ケイレツ」の壊し方
自動車プレス部品世界最大手のゲスタンプ・オートモシオン(スペイン)が、満を持して日本市場に攻め入る。6月14日、同社は日本国内で初となる研究開発センターを東京・八重洲に開所した。当面、狙うのは日系自動車メーカー向けの売り上げ倍増だ。
研究開発センターのオープニングイベントに登壇したゲスタンプ社の幹部たち。
同社は近年、急成長する自動車部品メーカーだ。主にボンネットやドア、フェンダーなどの車体部品やサスペンションアームなどのシャシー部品などを手がける。1997年に創業し、初期の売上高は数百億円だったものの、2000年代初めから年率20%以上で伸び続け、2016年12月期の売上高は約9300億円。今期は1兆円を突破する見込みだ。
その武器が「ホットスタンプ」と呼ばれる技術。高温まで加熱した鋼板をプレス加工し、その後で急激に冷やして強度を高める。近年、自動車部品で採用が進んでいる。「我々はホットスタンプの第一人者だ」。同社のフランシスコ・リベラスCEO(最高経営責任者)はこう胸を張る。
同社はこの技術を武器に、自動車メーカーと開発前段階から議論をはじめ、設計や性能シミュレーション、性能試験まで共同で開発する手法を採る。
この手法が自動車メーカー側から評価され、同社はフォルクスワーゲンを皮切りにダイムラー、BMWのドイツ勢を取り込み、米国のGM、フォードも顧客に加えた。
日本勢も、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、スズキ、三菱自動車などが取引先に加わっている。例えばホンダが一昨年に米国で発売し、大ヒットした「シビック」も、ゲスタンプが開発段階から車体部品を共同開発した。
日本に開発拠点を設けた目的は、当然、日系メーカーとの取引拡大にある。その「秘策」とも言えるのが、三井物産とのパートナーシップだ。三井物産は昨年末、ゲスタンプ社の12.525%の株式を取得。三井物産の勝登常務執行役員は「株主としてだけではなく、パートナーとしてゲスタンプの成長を支援する」と話す。
三井物産は、日系メーカーへの営業だけでなく、ゲスタンプが来年夏の開業を目指す日本工場への協力、非鉄材など鋼板以外の材料のノウハウ提供、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など新技術への対応を支援する。日経ビジネスの取材に対し三井物産の勝常務は「欧米系と日系の自動車メーカーでは、コミュニケーションで異なる部分が多々ある。開発への部品メーカーの関与の仕方も違う。そこを我々が支援していく」と語った。
日本の自動車産業には、グループ企業による系列の関係がいまだ色濃く残る。ゲスタンプは三井物産の力を借りながら、この強固な産業ピラミッドに入り込めるのか。ゲスタンプのリベラスCEOが、日本における事業展開に関して、日経ビジネスの単独インタビューに応じた。
日系メーカーがホットスタンプを使わないワケ
フランシスコ・J・リベラス氏
ゲスタンプ・オートモシオン会長兼CEO(最高経営責任者)
1964年生まれ。53歳。ゲスタンプの創業を推進し、1997年の創業時から代表取締役を務める。同族会社ACEKの社長のほか、ゴンハリ・インドゥストリアル、CIEオートモーティブなどの理事を兼任する。
事業戦略上の日系自動車メーカーの位置付けは。
フランシスコ・リベラスCEO:日系自動車メーカーの世界シェアは約30%。それに対し、当社の日系メーカーへの売り上げ割合は7%に過ぎません(2016年12月期実績)。まだまだ拡大できるポテンシャルがあるということです。
日系メーカーの割合が少ないのは、日本の自動車産業が持つ「ケイレツ」文化によって、外資の参入が難しいからでは。
リベラスCEO:ご指摘の通り。日系自動車メーカーの関連企業は競合であり、競争力も非常に高い。ただ、我々にも武器があります。その一つが技術力であり、もう一つが全世界で製品を提供できる地理的なアドバンテージです。十分、協力関係を築けるでしょう。
技術力の一つがホットスタンプです。車体の軽量化と安全性を高める有力な技術ですが、まだ日系メーカーは十分に活用できていません。
その理由は。
リベラスCEO:断定はできませんが、私の考えでは日系メーカーは日本の鉄鋼メーカーとの付き合いが深く、軽量化や強度アップに関して鉄鋼メーカーとの取引の中で検討してきました。いわゆる「ファーストチョイス」は鉄鋼メーカーの技術の中にあったでしょう。
我々はホットスタンプの第一人者です。実際に有効性が高いという認識がグローバルで高まってきました。今が分水嶺と言えるでしょう。日系メーカーの利用率も今後、伸びていくはずです。
ゲスタンプの日系メーカーに対する営業力が弱かったという面もあるのでは。
リベラスCEO:ご指摘の通り、我々のマーケティングが弱かったのかもしれませんね。否定はしません。今回、研究開発センターを開設し、来年、工場を立ち上げます。それだけ我々もポテンシャルを感じているのです。三井物産の知見も生かしていきます。
部品メーカーが躍進する理由
自動車産業の将来像への見立てを教えてください。ゲスタンプのような専門性の高い部品メーカーが伸びている一方で、独ボッシュや独コンチネンタルといった巨大な部品メーカーが事業の取捨選択やM&Aによってより勢いを増しています。今後の産業構造はどう変化しますか。
リベラスCEO:まず、大きなトレンドとして自動車メーカーは新しいテクノロジーへの投資が必須な時代になりました。コネクティビティー、自動運転、電動化、シェアサービス……。こうした新しいチャレンジが必要になっています。
つまり、新技術に対して多大な投資が必要になります。そこで、既存の伝統的な技術はアウトソースするという選択肢が出てくる。それが、部品メーカーが巨大化している理由でしょう。
伝統的な技術というと、プレス加工も含まれる。
リベラスCEO:その通りです。我々が75億ユーロ(約9300億円)もの規模の売り上げに成長した理由はそこにあります。これが今、自動車業界で起こっていることなのです。
新しい工場を立ち上げる場合、当然、新技術の割合は高くなり、既存技術への投資が進みます。これからどんどんこの傾向は強まるでしょう。この傾向によって、部品メーカーの階層化も進むはずです。アウトソースされた要求を進化する技術で受注できる部品メーカーだけが生き残る。ティア1同士の合併も進むと見ています。
自動運転など新しい分野への投資が話題になっていますが、その裏で伝統的な技術でも新しいビジネスチャンスや産業構造が生まれるということですね。
リベラスCEO:そこが非常に重要な点なのです。
その傾向は日系自動車メーカーからも感じますか。
リベラスCEO:欧米メーカーに比べたら兆候として小さいかもしれませんが、間違いなくその方向に向かっています。既存技術への投資は絞るはずです。それが、我々が日本で拠点を設けた理由の一つなのです。
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