この惨状をベネズエラは脱することができるのか。少なくとも、現在のデモでは政権を打倒して、新たな国家を構築するには力不足だという見方が今のところ主流だ。

 今回のデモは野党支持者だけでなく、高齢者や学生など幅広い層が参加している。だが、人口の一定割合を占める貧困層や労働者層はこれまでのところ限定的だ。

政府支持者(右)と野党支持者(左)の衝突。「マドゥロは健在」と叫ぶ政府支持者に対して、「マドゥロ政府は既に崩壊した」と応酬している(撮影:Luis Gonzalo Perez)

 それには様々な理由が指摘されている。

携帯も持てず、デモ情報が入らない

 1980年代と90年代の経済危機の時に、国営企業の民営化や社会的支出の削減などの経済改革を断行したが、そのしわ寄せはエリート層ではなく貧困層に向かった。その不満が蓄積したからこそ、チャベスが地滑り的に勝利したのだ。貧困層は現在の政府に対して絶望的な不満を抱いているが、一方で野党勢力が政権を握った時に以前と同じように自分たちにしわ寄せが来るのではないかという不信感を持っている。

 また、バーリオなどでは政府派の武装民兵が目を光らせている。デモに参加すればコメや砂糖などの配給を止められる恐れがあり、デモ参加に二の足を踏む一因といわれる。モバイル端末を持っておらず、デモ情報を入手できない、という単純な経済的理由もあげられる。

 「国民の間でマドゥロの人気がないのは事実だ。しかし、信じられないことに、今でも20%前後の支持は残っている。危機の深刻さを考えれば、驚くほど高い支持率といえる。一方で野党勢力は約55%の支持率があるが、マドゥロと野党勢力を支持していない層も25~30%いる。政府への不満と野党への不信。そのギャップにはさまれ、貧困層があまりデモに参加しない」。ニューヨーク大学准教授で中南米史が専門のアレハンドロ・ベラスコはそう指摘する。

 今後のカギを握る軍部も、マドゥロ政権から様々な便宜を受けていて、今のところは政権を支持している。

 弁護士で軍事アナリストのロシオ・サン・ミゲルによれば、過去6年間で1000人を超える人が大将や将官に昇格した。為替管理が厳しいベネズエラにおいて、軍人はドルなど外貨へのアクセスが優先されている。2016年2月には軍部の鉱山会社を設立、オリノコ地帯に眠る金やダイヤモンドなどの採掘権を軍部に与えた。その他にも、食料や燃料、ドラッグなどの取引に軍部は関与している。

「独裁化の加速」という悪夢

 事態が変わるとすれば、政権を支える与党内部の対立だとミゲルは見る。

 「現在のベネズエラで決定的な対立は政府と野党ではなく与党内にある。反政府デモの激化や、マドゥロ政権に対する国民大多数の拒絶が加速すれば、軍がマドゥロ不支持の立場を取る可能性はある。その際に、野党と与党穏健派の交渉で暫定政府が擁立され、出口が見いだされることも考えられる」

 就任以来、チャベスとその革命に忠実だった検事総長のルイサ・オルテガは政権に批判的な立場を取り始めた。国防大臣のパドリアーノ・ロペスも国家警備隊の弾圧を批判している。将来の政権移行を見据えての"責任回避"と見る向きもあるが、与党内部にマドゥロを拒絶する動きが出ている一つの証左である。

 もう一つのシナリオとして、マドゥロが独裁政権を確立していく道もある。マドゥロ政権は憲法改正のための憲法制定議会を立ち上げると布告した(選挙は7月31日に実施)。野党勢力は総選挙を要求しているが、現在の状況を考えれば、与党は恐らく敗北することになる。マドゥロの大統領任期は2019年に切れる。その前に自身の権力を固めるために別の議会を作り、憲法を変えるという驚愕のシナリオがまことしやかに囁かれている。

「そうなれば、1年間で100万人以上のベネズエラ人が国外に流出することになるだろう」(サミンゲル)。

 6月7日のデモでは、首都カラカスだけで200人以上の負傷者が出るなど、治安部隊の弾圧はエスカレートする一方だ。それに伴ってデモ隊の抗議の声も激しさを増しているが、それだけでは政権は倒れる気配はなく、経済状況も一向に好転しない。ベネズエラ国民にとっては白昼の悪夢だが、その状況はもうしばらく続く。

取材協力:Luis Gonzalo Perez(カラオタデジタル)、竹内祐子