当初、デモは野党が呼びかける平和的な行進が中心だったが、最近は野党とは無関係の暴動も増えつつある。2013年に死去した前大統領、ウゴ・チャベスの出身地では同氏の生家や政府の事務所が放火された。軍関係者が反体制派に拘束された写真もツイッターに出回る。国民の怒りが頂点に達しているのか、それとも野党弾圧の口実としてスパイを送り込んでいるのか、現時点では不明だ。

インフレ率720%

 反政府デモに発展した直接の原因は三権分立の侵害だが、国民の怒りの背景にあるのは「破壊的」と形容してもいいレベルの経済崩壊だ。

 モノ不足による買い物の大行列は、映像で報じられて世界的に有名な光景になっているが、想像以上に食料品や日用品、医薬品の不足が深刻化している。足元のインフレ率は720%。1ドル10ボリバルの公式レートに対して、一般市民がドルを手にする闇レートは7000ボリバルを突破した(6月10日時点)。

 1年半前にカラカスを訪れたときの闇レートは1ドル800ボリバル前後と、食料品などの調達で用いられた公式レート(6.3ボリバル)と比べて、既に通貨価値が大きく毀損していた。足元の水準は、当時を上回る大暴落と言える。ドルで給料が入る人はまだいいが、ボリバルで給料を得ている人々は、生活必需品を得ることすら難しい。

 「ずいぶんと長い間、肉は食べていません」

 カラカスに住むエルダ(本人の希望で仮名)は恥ずかしそうにそう打ち明けた。彼女は元音楽学校のピアノ教師で、そこを引退した今は、自宅でピアノ教室を開いている。収入は1カ月25万ボリバル(6月10日時点の闇レートで約35ドル)。極度のインフレのため、ほぼすべてが食費に消える。

 野菜とイワシは毎週土曜、近くの市場で買う。近くのスーパーにはパスタやコメなどの輸入品が売られているが、価格が高すぎて手が出ない。豆も高価なため、手に入れば1kgの袋を1カ月かけて少しずつ食べるようにしている。

 「ここ1カ月、パンが手に入らなくなりましたが、ピアノ教室の生徒にパン屋の息子がいるためフランスパンを4本分けてもらいました。でも、それ以来、パンを食べていません」

 食料品や日用品、電気代などすべての値段が上がっていくため、何かを切り詰めていく必要があり、生活は苦しさを増していく。スペインに移住した弟が、毎月200ユーロを仕送りしてくれるため、どうにか暮らしている。

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