【デジタル貿易】個人情報やクラウドを活用した、IoT関連サービス展開のチャンスが拡大

 草案では、デジタル製品への関税の不賦課、国境を越えたデータ移転に関する規制の制限やデータサーバのローカライズ要求の禁止などを提案している。同様の規定がFTAに取り入れられるようになったのは最近のことで、近年では2016年に発効した日モンゴル経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)や2016年2月に署名されたTPP(環太平洋パートナーシップ)において取り入れられている。

 特に後者の2つの規定については、規制があることでデータサーバのローカライズ情報の格納場所を特定しないことに特徴があるクラウドサービスの活用を妨げたり、複数国を移動する消費者(旅行者、出張者等)に対してシームレスにサービスを展開することが必ずしも容易でないなどの障壁となっている。

 NAFTAで規制の導入を禁止又は制限することによって、不要なサーバ設備投資運営コストが排除できるほか、電子的手段による国境を越えるビジネス目的の情報の移転が可能になるなど国境を跨いだIoT関連サービスのビジネスチャンスが拡大する。TPPの合意内容から逸脱しない限りカナダ、メキシコも受け入れが可能と想定され、規定が導入されれば北米地域でビジネス展開をする日本企業にとっても好影響が及ぶこととなる。

【国有企業】国有企業が競合となる場合/国有企業から調達する場合の双方で事業環境が改善

 草案では国有企業による貿易歪曲効果(障壁がなければ、本来実現されたはずの貿易が阻害された結果)の除去、国有企業が商業原理に従って行動することの確保、市場歪曲的な行為を助長するための補助金の撤廃等が提案されている。国有企業については、多国間のFTAとしては初めてTPPで規定が導入された。TPPでは、国有企業による無差別待遇と商業的考慮、政府等による非商業的な援助によって他の締約国へ悪影響を与えてはならないこと等が規定されており、草案の内容もこれに類似している。

 TPPの合意内容から逸脱しない限りカナダ、メキシコも規定の受け入れが可能であると想定される。TPPと類似の規定がNAFTAで導入されればNAFTA域内の国有企業との間で公正な競争条件が整備されることとなり、日本企業にとっては締約国の国有企業が競合となる場合/国有企業から調達する場合の双方において好影響となる。なお、メキシコは、TPPにおいてメキシコ連邦電力庁、PEMEX (Petroleos Mexicanos)、国家天然ガス管理センター、メキシコ公共事業銀行等を規定の例外としておりNAFTAにおいても例外とする可能性があるが、仮にこれら企業が例外扱いをされたとしても日本企業が置かれた競争環境が現状より悪化するものではない。

 以上が現時点で米国の草案から予測されるNAFTA再交渉のビジネス影響の一例であるが、様々な要因が絡み合いながら利害関係も変化しているなかで、今後の状況については予断を許さない。

経営が意識すべきことは、ビジネスの柔軟性の確保

 激変する国際情勢において経営が意識すべきことは、ビジネスの柔軟性の確保である。2017年以降の経営のキーワードは、「所有」から「利用」へのビジネスの転換だ。換言すれば、「固定費」型から「変動費」型へのシフトによるリスク軽減である。

 具体的には、例えば製造業においては、中期的な減価償却を前提とする自社工場設立や大型設備投資ではなく外部の生産受託サービスを活用する。これにより、短期的なコスト増を甘受しつつも、各国の保護主義による稼働リスクを回避することが可能だ。また、バックオフィス機能においても間接部門の自社採用ではなく、積極的に外部のシェアードサービスを活用することで、事業規模の柔軟な変更を可能とすることができる。

 NAFTA再交渉の進展によっては、今後、メキシコ、カナダにとどまらず中国や日本からも米国市場へのアクセス条件が悪くなる可能性があり、これに併せて企業の中期経営計画の見直しも必須となるだろう。企業に求められる通商インテリジェンスのレベルは、これまでにないほど高くなっている。

(2017.6.13 ※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります)

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