2017年5月18日、米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は米国、カナダ、メキシコの間で締結している北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)の再交渉を行う意向を議会に正式に通知した。当該通知は交渉開始の90日前に行うことが求められていることから、早ければ2017年8月中にNAFTA再交渉が正式に開始される。

米国とメキシコによる“紛争”一色のようにも言われるが…
NAFTA再交渉を米国とメキシコによる“紛争”一色のように捉える報道も見られるが、事実は少し異なる。
NAFTAが発効したのは1994年。今から25年近くも前のことであり、技術革新など時代の変化に対応していないことから、NAFTAを「近代化する」というのが再交渉の第一の目的である。
この点に関しては米国、メキシコ間の意見も一致するところであり、例えばeコマースに代表される「デジタル貿易」に関する規定を新設することなどが想定されている。他方、米国の第二の目的として、やはりトランプ大統領も選挙期間中から対メキシコの貿易赤字を問題視する旨を繰り返し発言してきたように、メキシコからの輸入条件を現在より不利にする意図があることも確かである。
「中国からの輸入を拡大させない」のも米国の目的の一つ
同時に、NAFTA域外国、特に中国からの輸入をこれ以上拡大させないことも米国の第三の目的となっていることに注目する必要がある。中国はNAFTA締約国ではないため、NAFTAの規定は直接には適用されないが、協定の改定内容次第では域外国からのアクセスの障壁を構築することができる。
2017年3月末、USTRは正式通知に先立ってNAFTA再交渉のための「草案」を議会に提出した。草案には関税、原産地規則、サービス貿易、投資、政府調達、貿易救済措置、デジタル貿易等の幅広い分野に亘る論点が掲載されている。
冒頭5月の正式通知においては個別論点への言及を避け、デジタル貿易、知的財産権、規制の慣行、国有企業、サービス、通関、衛生植物検疫措置(SPS)、労働、環境、中小企業という項目名のみを挙げ、これら項目を新設又は更新することによって「NAFTAを近代化する」と記載するに留めている。
しかしながら、3月に提出された草案には米国の意向が反映されていると推定されることから、本稿では草案において示された論点を中心にNAFTA再交渉のビジネス影響について解説する。
なお、今後は7月半ばまでに米国政府から詳細な交渉論点が提出されることとなる。
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