カルビーの松本晃会長兼CEO(最高経営責任者)が、6月24日付でRIZAPグループの代表取締役COOに就任する。伊藤忠商事を経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の日本法人社長やカルビーの社長・会長を経験した日本を代表するプロ経営者は、なぜ異色企業のRIZAPを選んだのか。
カルビーの会長退任を発表してから、多くの会社からオファーが来たのではないでしょうか。
松本晃会長兼CEO(以下、松本):16か17社ほどから話を頂きました。そのうちの半分は社外取締役や顧問の話で、残りがフルタイムに近いものでした。ただ私に来る話は、外資系の医療関係の会社が多かった。正直言うと、外資系の待遇はいいですけど、しんどいですね。特に時差です。J&Jのときも、就任期間の後半は、米国の担当者には『用事があるなら、日本に来てほしい』とお願いしていました。
カルビーの決算会見で、今後について聞いた際、「ワクワクする会社に行きたい」と仰っていました。数多くの会社からオファーが来ていた中で、RIZAPのどういったところにワクワクを感じたのでしょうか。
松本:もともとRIZAPについてはTVCMしか知らなかったです。ですが、どういった事業をやっているか聞いてみたら、色んな業種の会社を買収している。買収の1つ1つに脈絡があるかどうかはわかりません。ですが、私はそのわからないことが面白いと思いました。
「わからない」と、会社の信用性に疑問を覚える人が多いと思うのですが、むしろ面白いと思ったんですね。
松本:私は昔から1つのことに専念するよりも、全体でうまくいくということが好きです。1回に300ぐらいの事柄に取り組むのが好きなんです。大学の試験でも、現代文、古文、漢文、数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲ、日本史、世界史、科学、地理、英語。全部トータルしたから上々の出来でしたが、1つ1つは大したことありません。
カルビーはジャガイモを使ったお菓子という点で、1つのことに絞って事業を営んできた会社のように思います。
松本:だから新しいことをいつも求めていました。ポテトチップスの味付けや生産場所を議論するよりも、フルグラなどの新規事業や海外展開に力を入れてきました。
RIZAPは10倍に成長する
RIZAPグループ創業者の瀬戸健社長にも「ワクワク」を感じる部分はありますか。
松本:彼は面白くて、魅力的な男ですね。私の息子と同じ年齢ですが、あれほどの規模の会社のトップをやっているのに、性格がいい。私は性格が悪いんだけどね。そんな彼を世界で冠たる経営者にしたいと思いました。息子を成功させてやりたいお父ちゃんの心境ですよ。
RIZAPは上手にやったら、今の10倍の規模に成長すると思います。事業モデルはボディーメイク(フィットネスジム事業)を1つのコアにして、いろいろな会社を買収して、グループを拡大するものです。今は1000億円の会社を買収することは難しいですが、実力さえつけば、1000億円どころか、1兆円の会社でも買収することができます。20年後には世界の時価総額のトップ7に入るかもしれません。そんな会社を作っていくのは面白いでしょう。
RIZAPは松本さん以外にも、日産自動車やファーストリテイリングなどの大企業から役員経験者を数多く採用しています。多様な人材をまとめ上げるのは大変ではないでしょうか。
松本:かもしれないですね。でも上手に採用をしています。1人1人は優秀です。問題は買収した会社のマネジメントだと思います。基本的には買収した会社のマネジメントは、買収前と変わらず元の経営陣がそのままやっています。
最初はじっと観察をする
現状のマネジメントでも成長できている会社は多いですが、より高い成長を目指すには、マネジメントを変える必要はありますか。
松本:でしょうね。ただ、どんな会社を買収したのか、見当もつかないので、まずは私がRIZAPに入社をしたら、1人1人に会って、話を聞くしかしょうがないと思っています。最初はじっと観察をする予定です。
M&Aした会社をうまくマネジメントするポイントはありますか。
松本:グループとしてのコンセプトを理解してもらうことです。J&Jには、経営理念を記した『クレド』という大原則があります。このクレドの範囲内でしか動けません。日本の会社のものは抽象的ですが、J&Jのものはプラクティカルで、わかりやすい。私がカルビーにきて、最初にやったことはコーポレートビジョンです。ここから絶対外してはだめですよと決めました。おそらくRIZAPにはそういう理念がないのではと思います。この部分を厳しくやらないと、買収した会社が不祥事を起こしたときに、RIZAPグループそのものが壊れてしまう危険性があります。
瀬戸社長が経営者として足りない能力は何かありますか。
松本:唯一、経験だけだと思いますね。
そこは松本さんのような年長者がサポートするということですね。
松本:だから彼が採用している経営幹部は、ほとんど彼より年上です。瀬戸氏は直感的なのか、頭がよくてやっているのか知らないけど、よくやっていると思いますよ。
自分の存在が会社の「保証」になる
松本さんの存在は、RIZAPの社会的な保証のように見えるという声があります。
松本:(保証に)なると思いますね。
松本さんという保証がRIZAPにつくことで、RIZAPはどう変わりますか。
松本:きっときれいになるでしょうね。外から見て、どういった会社かわかりやすくなるかもしれません。RIZAPの株主に機関投資家は少ないようです。上場しているのは、札幌証券取引所のアンビシャスですが、株式を買おうと思ったら、どこでも買えます。ところが、RIZAPそのものが何かよくわからないんでしょうね。もちろん個人株主を増やすことはいいことですが、バランスは必要だと思います。特に外国の機関投資家は率直になんでも意見してくれますから。カルビーは株主の約半分が海外の機関投資家です。
将来的に日本経済の停滞が避けられない中で、中小や中堅企業で業績不振から身売りする企業が増えると予想しています。そういう状況になったときに、RIZAPのように不振企業を買収して成長させる事業は、1つのビジネスモデルとして成り立つ可能性はありますか。
松本:全くその通りだと思いますね。不振な会社を外から眺めて、あれをやったら、良くなるのになと思うことはあります。それを大成功させているのが、日本電産の永守重信さんでしょう。永守さんはモーターという1つの大きな軸を持っています。もちろん瀬戸氏には健康という軸がありますが、ブレ幅が大きいと思いますね。
RIZAPのような会社が増えたら、日本はどう変わると思いますか。
松本:もう少し活発化すると思いますよ。30~40代の若い人がどんどん成功してほしいですね。
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