「価格の透明性」にこだわるジェットの哲学、これはEDLPというウォルマートの哲学に合致する。

 ウォルマートを創業したサム・ウォルトンは経費を極限まで切り詰めることで、他社が採算が取れないと判断した地域に進出した。その後も店舗の大規模化やドミナント戦略、IT(情報技術)を用いたサプライチェーンの効率化などに多額の投資を進め、一つひとつの商品のコストを切り下げた。その結果がEDLPであり、”Saving Money(節約)”という価値の提供である。

EDLPをeコマースで実現

 もっとも、店舗に決まった商品を大量に配送するのと不特定多数の個人に異なる商品を配送するのが根本的に異なるように、EDLPをeコマースで実現するには既存のリソースや従来の方法論だけでは限界がある。そこで、似たような哲学とウォルマートにはないテクノロジーを持つジェットの買収に踏み切った。「ロアを引き入れたということは買い物かごを作るということ」。米カンター・リテールのディレクター、ローラ・ケネディはこう指摘する。

 まだジェットのスマート・カートはウォルマートのネット通販サービス「ウォルマート・ドット・コム」に適用されていないが、商品ごとのコストを透明化するというコンセプトは取り入れられている。

 例えば、4月に発表したピックアップディスカウントがそうだ。これはオンラインで購入した商品を最寄りの店舗まで取りに行けば、その分をディスカウントするというサービスだ。配送コストのかなりの部分を占めるラストマイルを顧客が代行すれば、その分のコストは大きく下がる。それを消費者に還元していく。

 6月1日には、アーカンソー州やニュージャージー州など3カ所で“Associate Delivery”の実験を始めると発表した。これは店舗で働く従業員に配送させるというアイデアだ。

 ウォルマートの従業員は大半がクルマで通勤している。彼らの近所にはウォルマート・ドット・コムのユーザーも多くいる。そこで従業員に専用のアプリを配り、帰宅時にウォルマート・ドット・コムやジェットで購入した消費者の家まで届けてもらえば、ラストマイルのコストが下がるーーと考えたわけだ。

 同社が開発したアプリに従業員の住所を打ち込むと、その帰り道の最も近い配送先が提示される。配送をお願いするのはあくまでも希望者で、デリバリーに対しては配送料を払う。配車サービスを手がけるウーバー・テクノロジーズのようにドライバーと荷物をマッチングさせる方式を採る場合、運転手は配送先に直接向かうが、今回の仕組みは従業員がそもそも帰るところに行く。「これはラストマイルで極めて大きな時間の節約になる」とロアは期待を寄せる。