eコマースの大幅な改善――。それは昨年8月に買収したネット通販ベンチャー、ジェット・ドット・コムと、同社のCEO(最高経営責任者)から米国eコマース部門の会長兼CEOに横滑りしたマーク・ロアの存在が大きい。

 「高すぎる」という声が市場から上がったように、ジェットの買収金額は33億ドル(約3600億円)と創業1年あまりの新興ベンチャーに投じる資金としては桁外れに高い。しかも、スタートアップのCEOにウォルマートという巨大企業のeコマース事業を任せるのも思い切った決断だ。今回の買収には小売業界やウォール街からは驚きの声が上がったが、それだけの高値を払っても、ジェットのテクノロジーとロアの才能を求めたということだ。

ウォルマートの米国eコマース部門をテコ入れしているマーク・ロア。同社が買収したネット通販ベンチャーでCEOを務めていた(AP/アフロ)

 2016年9月以降、eコマースの責任者に就任したロアが進めているのは、テクノロジーを駆使したeコマース版の「エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)」の実現である。

配送料含め消費者ごとのコストをガラス張りに

 買収前、ジェットが投資家から高く評価されていたのは独自のプライシングシステムを持っていたためだ。「スマート・カート」と呼ばれる仕組みで、商品を買い物かごに入れるたびに、買い物の中身や量、商品が保管されている倉庫、支払い方法などを勘案して合計金額が変わる。

 考えてみれば当然だが、同じ配送センターにある商品であれば、同じ箱に詰めて配送できるのでその分配送料は抑えられる。また、支払いをクレジットカードではなくデビットカードにすれば、手数料の分だけ合計金額を引き下げることが可能だ。買収前、ロアは米CNBCで「本当の限界コストを反映させる」と語った。まさに、配送コストなど消費者ごとに異なる商品のコストをガラス張りにしようとする試みである。

 これは「99ドルの年会費で2日以内無料配送」というアプローチを取るアマゾンとは対極に位置している。

 アマゾンの場合、プライムメンバーになると消費者は買えば買うほど配送料がお得になる。どれだけ注文しようとも、年会費以上には配送料がかからないからだ。見方を変えれば、年会費というシステムを取ることで、消費者が一つひとつの送料を考える心配をなくしたということでもある。

 物流に占めるコストの70~80%は配送センターから消費者の家までの「ラストマイル」といわれる。その部分のコストを年会費で解決したという点で、アマゾン・プライムはeコマースの分野に革命を起こした。一方でジェットは一つひとつの注文に関わるコストによりこだわり、そのコストを極限まで引き下げる仕組みを作りあげた。だからこそ、業界に衝撃を与えたわけだ。