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北朝鮮問題が背景にある

 日本が躊躇する背景には北朝鮮問題があるようだ。日本は来る米朝首脳会談でトランプ氏に拉致問題を取り上げてもらうために、トランプ政権をへたに刺激したくないとの思いがある。その結果、対抗措置やWTOに持ち込むことを躊躇している。これでは自ら安全保障と通商をリンクして考えているようなものだ。

 これは日本がかつて繰り返してきた「対米配慮病」である。米国に配慮をしているつもりになっているが、米国は何も気にしておらず、日本の自己満足である。いわゆる駆け引き、ゲームとしか捉えていないトランプ氏が「配慮」されていると好意的に受け止めるとでも思っているのだろうか。こうした相手にはルールに基づいた対応を淡々と行うのが得策だ。

 しかもEU、カナダ、メキシコがWTOに提訴するのだから、日本は何の躊躇も必要ない。むしろWTOの貿易秩序を守ることが極めて大きな国益につながる日本が、唯一WTOに提訴しないことの方が奇異だ。本気で貿易秩序を守るつもりがあるのか、世界からその姿勢を疑われる。EUはWTO提訴を「国際ルールに基づく貿易システムを守るためだ」と強調している。

 これこそ日本が率先して言うべきセリフではないか。

 なお、「WTOでの解決には時間がかかる」「WTOでクロ裁定になってもトランプ政権は従わない恐れがある」と言って、WTO提訴にネガティブな指摘もある。しかしそれはWTO提訴しない理由にはならない。むしろWTOの貿易秩序を守るために、EUとともにWTOを補強する努力を行うべきなのだ。

 日本が深刻に考えなければならないのは、鉄鋼問題の次に自動車問題が控えているということだ。ここできちっとしたルールに基づく対応をして牽制しておかなければ、日本は自動車問題で大きな代償を支払うことになる。その打撃は鉄鋼の比ではない。日本の鉄鋼業への実害の大小は、事の本質ではない。

 さらに中国への波及も忘れてはならない。将来、中国が安全保障を口実にして輸入制限する恐れも十分ある。米国の対応を放置すれば、中国に対する歯止めもなくなることにもつながる。

中国に対しても弱腰の日本

 日本は、米国に対してだけでなく、中国に対するWTOへの提訴も躊躇している。

 EUは米国へのWTO提訴と同時に、中国による知的財産権の侵害についてもWTOでの紛争処理手続きを開始したと発表した。米国は中国の知的財産権の侵害に対して、通商法301条に基づいて一方的制裁の発動をしようとしているが、同時にWTOにも提訴している。米国をWTO体制に繋ぎ止めておくことは日本にとって死活問題である。そういう意味で日米欧がWTO提訴で共同歩調を取ることは重要だ。

 米欧が中国に対してWTO提訴したにもかかわらず、日本が躊躇しているのはなぜか。

 理由は「対中配慮」だ。これも日本の対中政策の伝統的な悪弊だろう。

 今、日中には関係改善の兆しがある。習近平国家主席の年内訪日も期待されている。そういう中で中国を刺激したくないというのが、政府の考えだ。「政治問題化を避ける」というのが、大人の対応と言うわけである。

 こうした議論が政府内でも幅を利かせているようだ。

 しかし、これも自己満足の「配慮」ではないだろうか。むしろWTOに持っていくことが、政治問題化を避けて問題の解決を図ることになると気付くべきだ。

日本はEUと共同歩調をとるべき

 EUはこれまで築き上げた貿易秩序を壊そうとする米国、中国をそれぞれWTOに提訴することを同時に発表した。そのバランス感覚はさすがだ。そうしたEUと日本は共同歩調を取るべきではないか。

 かつて私は経済産業省時代、日米鉄鋼摩擦で奔走していたが、2002年に米国がセーフガードで輸入制限した際、EUとともにWTOに提訴して勝訴し、米国はセーフガードを撤回した。そうしたEUとの共同歩調は、貿易秩序の維持のためには不可欠だ。

 「対米配慮」「対中配慮」という、もっともらしい言葉が日本が目指すべき大事な目標を見失わせてはいないか。日本が守るべき最大のプライオリティーは、通商秩序そのものだということを忘れてはならない。