「一体、どうやって1週間もサバイバルしたのか」

 英国の大手新聞ガーディアンも、田野岡くんが行方不明となった先月28日に一報を伝え、6月1日の一面で事件の経緯を詳報した。その後、田野岡くんの無事を伝えた速報記事は、掲載から8時間ほどでフェイスブックで1万5000件以上の反応(いいね!など)と2000以上のシェアを記録し、ここでも関心の高さを見せつけている。

 執筆にあたった東京特派員のジャスティン・マッカリー記者によれば、英国を始め米国、オーストラリア、カナダ、そして日本からのヒットが多かったという。英国での関心の高さの理由についてマッカリー記者は「恐ろしいことが起きたという驚愕と、見つかって良かったという安堵感、そして好奇心」とが入り混じっていたのだろうと語る。

 「英国の多くの読者は両親の行動に批判的である一方、同情的な人たちもおり、一体どうなってしまうのだろうと、釘付けになっていた。無事に生還した時には、たった一人、山の中で一週間近くどうやってサバイバルしたのか、情報を渇望していた」

 更にマッカリー記者は、言うことを聞かない子供に堪忍袋の尾が切れてしまった親の単なる判断ミスだ、という意見から、この事件を子供の虐待問題だと捉え、警察による捜査が必要だとする厳しい見方も多く存在したことを指摘する。

 「一概には言えないが、このニュースに興味を持った人たちは、日本では法的に子供を守る術が少なく、また、子供の虐待に対する社会的な認識が英国より低いのではないかと感じていると思う」とマッカリー記者は分析する。

「子供を一人にさせてはならない」という意識が強い英国

 こうした子供の置き去りが英国で起きた場合、どのような結果となり得るのか。英国児童虐待防止協会(NSPCC)は、事件の経緯に関する情報が足りず、必ずしも英国の場合に照らし合わすことはできないとしながらも、筆者の取材に、文書で次のように述べている。

 「英国では子供が一人で出かけて良いとする最低年齢は、法律で定められていない。子供の安全は親、もしくは法的な保護者に委ねられ、子供がどこへ行かれるか、また外出に適した発育を遂げているのかを決めるのは彼らである」

 「子供が危険にさらされた場合、その親が子供の安全を守るための適切な段階を怠っていれば、ネグレクト(育児放棄)で起訴される場合もある。適切なステップとは、一緒にルートを歩く、迷子になった場合、子供が親やその他の人にどうやって助けを求めたら良いかを確認するなどである。しつけや、子供を懲らしめるためにと危険にさらすことは、絶対に許されない」

 英国における子供の虐待防止における法整備の歴史は、19世紀に遡る。子供を守るための「児童虐待防止法」が制定され、親子の間に法的な介入を行うことが可能となったのが1889年だ。この時から警察は、子供が危険だと判断すれば家宅捜索を行い、危険に晒した大人を逮捕することができた。

 以来、親による虐待で子供たちが命を落とすという痛ましい事件が起こるごとに法改正などを行い、子供を守るシステム作りを行ってきたとNSPCCは回答している。

 「英国ではこれまでに、ネグレクトによる弊害への理解がより深まっている。情動を奪われた経験のある子供たちは、精神衛生上の問題を抱えたり、社会や人との関わりのスキルが乏しくなったりする。また、犯罪を犯してしまう傾向が多いことも明らかになっている。英国政府も批准している『国連・子供の権利に関する条約』も、子供を身体的と同時に、感情的にも育成していくことが重要だとしている」(NSPCC)

 英政府サイトによれば、子供を一人にして良い年齢は法的に定められてはいない。しかし、子供にリスクを与えるような場所に置くことは違法であると明言し「不要な苦しみや、健康を害するような」場合、親への起訴が可能だとしている。これは1933年の児童少年法で定められている。

 4年前に大手調査会社YouGovが行った世論調査では、子供が親や保護者を伴わずに通学して良い平均年齢を大半の英国人が10歳と答えた。更に、子供だけで自宅に数時間いても良い平均年齢は13歳とする結果が報告されている。

 英国の大人が、日本の児童が子供だけで通学する姿を見てしばしば仰天するのも、日英の治安状況の違いもさることながら、子供の安全に関する認識の違いも背景にあると推察される。

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