特定複合観光施設区域整備法(IR法)がまもなく成立する見通しだ。5月22日に衆議院本会議で同法案が審議入りしており、自民・公明の与党は6月20日までの今国会の会期中に成立させる方針だ。

 IR法は、しばしば「カジノ法」と呼ばれる通り、カジノを含んだ統合型リゾート(IR)施設の整備を推進するための法律だ。同法では、IRには、カジノやホテルに加えて、国際会議場や展示場、その他の観光の魅力を増進する施設を含むことを定めている。

 米国ラスベガスで発展した大型カジノ・リゾートに比べると、日本のIRには公共性の高い施設を多く設けることを求められる。儲かるカジノ事業を許す代わりに、採算性の悪い施設も作って、日本の国際観光に貢献してもらう、という趣旨だ。

 この日本初のカジノ法は、IR限定以外にも、諸外国のカジノ法と比べ際立った特徴がある。ギャンブル依存症など負の側面を極力軽減するという目的から、自国民(日本人)の入場を厳しく制限していることだ。
 比較的富裕層の多い日本人客の囲い込みが簡単にできると踏んでいた海外のカジノ・リゾート運営業者にとっては、当てが外れた格好だ。だが、日本参入をめざす外国企業はすでに戦略転換を始めてもいる。

 5月下旬に来日した、米ラスベガスの大手運営会社、MGMリゾーツ・インターナショナルの会長兼CEO(最高経営責任者)であるジェームス・ムーレン氏に、IR法に対する評価を聞いてみた。

 同氏は、「IR法案は、非常によく研究されており、カジノの諸問題を包括的に網羅している。日本の方々が日本人の安全・安心のために努力した姿を見ることができます」と、まずは優等生的な回答をした。

外国企業はカジノ税率や入場規制に不満

 日本のカジノ法制化は、推進派議員たちによる長年の準備を経て、2016年末にIR推進法が成立してから勢い付いた。推進法により、1年以内をめどに実施法(今回のIR法)を成立させることが義務付けられた。

 外国のカジノ・リゾート運営会社は、昨年中からIR法案の中身を注視しており、政府案の情報が出た折には、複数の外国運営会社トップが、規制が厳しすぎると不満を表明していた。不満が集中していたのは次の3点――カジノ税率が高い、日本人の入場規制がきつい、IR全体に占めるカジノの面積制限がきつい――だった。

 法案提出に向けて自民党が公明党の主張に歩み寄り、当初の案より厳しい規制内容となって法案化された。

 カジノ税は、カジノ粗収益の30%(国と都道府県で半分ずつ)に。カジノへの入場は20歳以上に限定。外国人観光客はパスポート審査で無料入場できるが、日本人と日本居住の外国人にはマイナンバーカードによる本人確認と回数制限がある。入場は1週間で3回まで、28日間で10回までと制限され、一日当たり6000円の入場料もかかる。

 カジノ面積制限は、IR法成立後に政令等で定めることになっているが、上限3%となる見通しだ。

 こうした点をたずねると、ムーレン氏は慎重に言葉を選びながら答えた。「運営会社にとってパーフェクトかと問われれば、ノーとなります。しかし、弊社は、日本のIR法の構成に沿って、透明性が高く、安心して足が運べるIRを作ることができると確信しています」と。

 税率や入場制限には、絶対的な基準があるわけではない。カジノ税率は国により算定基準が異なるが、大雑把に言えば、シンガポール17%、ラスベガス7%。マカオ40%など。また、シンガポールでは回数制限なしで入場料が1日当たり100シンガポールドル(約8000円)だ。

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