今年5月、元米国駐日大使のジョン・ルース氏らが三菱商事など国内大手企業の出資を受け、3億3500万ドル規模の投資ファンド「ジオデシック・キャピタル」を立ち上げた。出資したのは三菱商事のほか、三井住友銀行、三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、損害保険ジャパン日本興亜、ニコン、日本政策投資銀行など約10社。

 投資先は日本進出を目指す米シリコンバレーの有力ベンチャー。既に、共有した写真や動画が短時間で消える新手のスマートフォン(スマホ)向けアプリを手がける米スナップチャットなど4社に投資している。

 2013年まで駐日大使を務めたルース氏は、なぜ今、日米をつなぐファンドを立ち上げたのか。今回、ルース氏のパートナーとなった、アシュヴィン・バチレディ氏とともに狙いを聞いた。バチレディ氏は、米著名ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツで、フェイスブックやツイッターなどの投資に関わった実績がある。

今回、日本企業と一緒にファンドを立ち上げた背景を教えてください。

元米国駐日大使のジョン・ルース氏(撮影:陶山勉、以下同)
元米国駐日大使のジョン・ルース氏(撮影:陶山勉、以下同)

ルース氏:まず、私自身のバックグラウンドを説明させてください。私はオバマ大統領の1期目の政権で駐日大使を務めた2009年から2013年の以前、約25年間に渡ってシリコンバレーにおり、そこでは主に、若い起業家のために弁護士として彼らの成長を支援していました。駐日大使を退任し、ふたたびシリコンバレーに戻った際、大きく3つの気づきがあったのです。

 1点目ですが、確かに以前、25年間のシリコンバレー生活の間も様々なイノベーションの波がありましたが、帰国後の2013年以降は、それよりも大きなイノベーションのうねりがありました。それも、テクノロジー業界のみならず、世界のあらゆる産業が影響を受けるのではないかという、破壊的とも言える変革の波です。

「多くの日本企業がシリコンバレーに関心」

ルース氏:2点目ですが、米国に帰国した際、シリコンバレーの多くの知り合いから私に連絡がありました。それは、「日本市場に参入したいのだけれど、どうしたらいいか」というアドバイスを求めるものです。

 3点目は、これは私が駐日大使を務めていた時から気づいていたことでもありますが、多くの日本企業、あるいは日本の政府が、どうしたら自分たちもシリコンバレーに関わり、そのメリットを享受できるか、ということについて関心を持っていた、ということです。

 そこで、私は駐日大使時代に個人的な知己のあった三菱商事の小島(順彦・前会長)さんに、「シリコンバレーのベンチャーに投資するファンドを一緒に立ち上げることができないか」という趣旨の話を持ちかけました。

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