株主「ヨーカ堂衰退の原因は鳩のマークの消滅にあり」

 ここで、質問はあと2つに限ると村田社長が語った。

株主

「どーーーも、村田さん、久しぶり。私もベテランオーナーとして意見を言いたいと思います」

「まず鈴木会長には、お疲れさまでしたと申し上げます。一方で、井阪さんには、お願いをしたいことがあります。それがアルバイトの賃金の状態がよくないことです。私の記憶だと、1978年の頃のアルバイトの時給は400円程度でした。当時の店舗の(1日当たりの)売り上げは約40万円。それが現在、時給は910円で、売り上げは68万円」

「売上高が1.7倍なのに対して、人件費は2.2倍になっています。フランチャイズシステムでは、加盟店が人件費の上昇分を負担しています。それを正確に、株主のみなさまにもまずは理解してもらいたいと思います」

「その上で、井阪さんにもう1つお願いがあるのです。イトーヨーカ堂の業績悪化の原因は、総合スーパーが時代に合わなくなっている、とよく言われています。けれど私はそうではないと思っています。イトーヨーカ堂は、鳩のマークがなくなったからダメになったんです」

「鈴木さんが会社を持ち株会社化して、鳩ぽっぽのマークを下して、7&iの看板にしました。あれが、イトーヨーカ堂の社員の意識を下げたのだと思います。消費者は、鳩ぽっぽのマークへの信頼で買い物をしてきたはずです」

「私自身も、鳩ぽっぽのマークの伊藤さん(名誉会長)がコンビニをやるから、セブンイレブンのオーナーになりました。鳩ぽっぽのマークを愛しています。ですからどうか、鳩ぽっぽのマークの復活を、お願いしたいのです」

井阪氏

「大変貴重なご意見をいただきました。日本が直面する1つの大きな問題として労働力不足があります。ステークホルダーのみなさまに、フランチャイズのシステムを理解してもらう対話も重ねていきたいと思います」

 最後の質問になった。

株主

「私は毎年、株主総会に参加するのを楽しみにしていました。楽しみの1つが、今年からやめたという試供品にあります。去年から膝を悪くして、杖をつきながらここに来ているのですが、なぜ、みんなが楽しみにしていた試供品をやめたのでしょうか」(会場からは拍手)

後藤氏

「セブンプレミアムを導入した折に、認知度がそれほど高くなかったので、みなさんに知って頂きたいと思って始めた試供品であります。おかげさまでセブンプレミアムの売上高は1兆円を超え、認知も広がってきました」

「当初の目的である認知を高めることはとりあえず達成しました。1兆円という節目もあったので、お土産としての試供品の提供をやめたわけです。貴重なご意見を頂戴しました」

 質疑が終わり、各議案の裁決に進む。1号議案が拍手で可決。2号議案については、株主からの質問が最も多かった。これについては、候補者全員を一括して選任する方法で進められ、拍手で原案通りに可決。新任取締役の紹介へ進んだ。

 井阪社長や後藤常務、伊藤取締役…と、選任された取締役は順に起立して礼をする。これに社外取締役の紹介が続き、13人が再任された。加えて新任取締役として、セブンイレブン社長に就く古屋一樹氏が紹介された。

 3号議案も拍手で可決。

 通常ならば、株主総会はここで終わる。だが今回はトップの交代などもある。そこで最後に退任する鈴木会長と村田社長、新たにトップに就く井阪社長が、それぞれ株主に対して挨拶をする機会が設けられた。まずは顧問に退く村田社長。

村田氏
「本日をもって退任します。セブン&アイを設立して10年、株主のみなさまに力強いご支援をいただきましたことを心より御礼申し上げます。何よりも、偉大な経営者であります会長の鈴木敏文氏と一緒に退任できることが、私にとって一生の宝でございます」

 村田社長の言葉の端々からは、鈴木会長への溢れる思いが伝わってくる。最後に「ありがとうございました」と力強く締めくくると、会場から拍手が上がった。

 続いて、井阪社長が中央の議長席に登壇し、挨拶を始めた。

井阪氏

「私がまず、どんな会社にしたいかというと、創業理念である全てのステークホルダーに信頼される誠実な企業でありたいと思っています。原点に立ち返って、自由闊達で風通しのいい会社にしたいと思っています」

「その上で、鈴木会長の経営理念である変化への対応と、絶対価値の追求を受け継いで、礎として大役を務めたいと思っています。持続的な企業価値の向上に向けて、精一杯頑張ります」

鈴木会長、去る

 最後に鈴木会長の挨拶が始まった。現役の経営者としては、最後の言葉を残すことになる。鈴木会長が議長席に登壇すると、これまでよりも一層大きな拍手が起こった。鈴木会長の口調は、淡々としている。

「鈴木で、ございます。私がグループに参画させて頂いたのは、1963年でございました。その時の規模は、売り上げで約40億円でして、店舗数は2店舗でした。その後、やはりみなさま方の多くのご支援をいただきながら、会社が成長してまいりました」

「そして今日は、グループ全体の売り上げが10兆円を超す規模になりました。これもひとえに株主のみなさまのご支援があったからだと思っています」

「先ほども質問がありましたが、今はもう晩年でございますし、一部、イトーヨーカ堂や西武については懸念もありました」

「しかし、イトーヨーカ堂については今年に入って徐々にではございますが、良い方向に向かっていると確信しています。西武についても、新しい商品を入れることをやっております」

「何より、これからの大きな問題はオムニチャネルです。オムニチャネルに対して、どれだけ力を入れてくれるか。もちろん、力を入れてくれることを私に宣言してくれております」

「それがきちんとできれば、我々の会社は小売業として日本で一番、そして世界で何番目かに、成長すると思います。それについても、株主のみなさまのご支援をいただくようにお願いをして、挨拶にかえたいと思います」

 鈴木会長は正面を向いたまま淡々と話し終えた。

 鈴木会長が挨拶を終え、議長席から去ろうとすると、村田社長がそれを止めた。そして、村田社長に促される形で、井阪社長が鈴木会長と握手を交わした。まさに、「ノーサイド」の演出だ。

 その後、閉会が宣言されて、株主総会は幕を閉じた。株主や役員たちがぞろぞろと会場を去っていく。

 株主総会にかかった時間は1時間52分。出席者は合計1385人だった。昨年の出席者数が1984人なので、それよりも参加人数は少ない。参加したのは、カリスマ最後の姿を目に収めたいと思う株主が中心だったのだろうか。

 こうして、経営者・鈴木敏文はついに経営の第一線から去った。

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