「しこりは残っていない」
質問が続く。
「私は、鈴木会長の魅力にひかれて株を買いました。けれど、報道などを見ると、会長は退任後、本社に事務所がなくなるそうです。それはとても寂しいことです。大変苦労してきた会長が、退任する時に居場所を失うとは、とても理解できません」
株主は強い語気で、鈴木会長が本社から去ることを批判した。こうして株主からの質問を聞いていると、鈴木会長の手腕や人柄などを評価して株を購入した個人株主が多いことが分かる。
「会長の、顧問就任後の執務室については、会長と、井阪取締役、後藤取締役の間で検討を重ねました。そこで最終的に会長自身が、『自分がそばにいると、なかなかやりづらいこともあるだろう』と決断を下されました」
「そこで本社の近くにオフィスを開設して、いつでも役員や社員が、質問したり相談に言ったりできるような体制を組んでいこうということで、こういう形になりました」
「マスコミの記事を読むと、とてもセンセーショナルな言い方で書かれていたようですが、そんなことでは決してありませんでした」
村田社長は、井阪社長をフォローする形でこう回答した。井阪社長が鈴木会長に、「出て行ってくれ」と迫ったと報道されたことを念頭に置いた返答と見られる。
“お家騒動”に関する株主からの質問は、さらに続く。
「取締役選任の件で、先ほど『ノーサイド』という言葉が聞かれましたが、やはり無記名投票の内容を精査した方がいいのではないでしょうか。これを出さずに片付けると、しこりが残ると思う」
村田氏「4月7日の取締役会の決議の無記名投票のことだと思いますが、これについては先ほど、私が回答した通りです」
「セブン&アイは、創業者の伊藤名誉会長と、ここにお座りいただいている鈴木会長のお二人で作ってまいりました。この基本的な精神は、誠実で信頼される企業になるという1点です」
「いろんな議論がありますが、我々が他の企業と違うところは、一度1つに固まれば、みんなが1つのベクトルに向けて事業を徹底して実行することにあります。世間の常識とは違うかもしれないけれど、『ノーサイド』『みんな仲間だ』という考え方で、現在、ここに座っている全員で、その価値観を共有しています」
村田社長の語る、「一度1つに固まれば、目指す方向に向けて徹底して実行する」というセブン&アイの特徴は、そのままセブンイレブンの強みとも言える。目標を共有すれば、それに向けて一丸となる。そのため今はしこりが残っていないと、語調を強くして訴えた。村田社長の言葉を聞きながら、鈴木会長は会場の正面を見据えている。表情から、思いを読み取ることは難しい。
株主「会長!退任を先に延ばしてください」
「鈴木会長にお願いがあります。退任を先に延ばせないでしょうか。会長がいなくなれば、会社が傾いてしまいます」
唐突にこう切り出した株主の提案に、会場からは笑いがもれた。鈴木会長も、この要望に笑顔で答えた。
「私も年ですし、長い間やってきました。今回もいろいろと話し合いまして、若い人たちがしっかりと後を継ぐと、私も自信を持っています」
「そういう意味で、みなさまの強いご支援をいただければ、会社を今まで以上に伸ばしていけると思うので、是非、ご支援を頂きたいと思います」
相変わらず、2号議案についての質問が続く。鈴木会長のファンが多いことがよく分かる。
株主「同一労働、同一賃金への対応は?」
「セブン&アイでは現在、同一労働、同一賃金を導入しているのでしょうか」
この質問に回答すべく立ち上がったのは、セブン&アイの後藤克弘・常務兼CAO(最高管理責任者)。新体制ではセブン&アイの副社長として、井阪社長をサポートする。 これまでも「セブン&アイのナンバー3」「鈴木会長の懐刀」などと言われてきた人物で、鈴木氏の次男・康弘取締役らが推進してきたオムニ戦略も管掌することになる。
「小売業は、労働集約型の産業であります。常に労働生産性を高めていないと付加価値の提供ができないという宿命を持ちます。ですから人事政策では、しっかりと働いている人にはそれに見合う給料をきちんとお支払いしていきます。管理職や正社員への登用の道も用意しています」
「同一労働、同一賃金になるとコストが上がると考えられがちですが、賃金は投資だと思っています。投資に見合う生産性を高めることに、今後とも注力してまいります」 」
株主「衣料事業部を切り離して!」
続いて、イトーヨーカ堂の衣料品の在庫の問題について質問が飛んだ。
「スーパー事業の営業利益についてたずねたいと思います。スーパー事業ではイトーヨーカ堂が中核ですが、営業利益があまり上がっていません。百貨店事業でも営業利益は上がらないけれど、足を引っ張っているのは衣料部門だと思います」
「利益が上がらないから、業務改革を実施して、利益を確保しようとしているけれど、そもそも衣料事業部を切り離してしまえないのでしょうか」
「以前、衣料品の在庫が60日分あるのに、まだ仕入れている、と聞きました。業績でも、在庫を削減したから利益が減ったということを言っています。しかし60日分の在庫があるということは、今仕入れたものは7月にならないと売れないということですし、今販売しているものは3月に仕入れたものだということです。一体、どうするつもりなのでしょうか」
日経ビジネスは、イトーヨーカ堂の在庫問題についてスクープで報じている。イトーヨーカ堂の業績を改善するために、鈴木会長が、創業ファミリーである伊藤家らに在庫の買い取りを要請したという内容だ。取材を通して、この打診によって、鈴木会長と伊藤家の信頼関係が崩壊したことも分かった(ヨーカ堂100億円在庫買い取り要請が頓挫)。株主からの質問については、イトーヨーカ堂の亀井社長が答えた。
「イトーヨーカ堂の衣料品は現在、2000億円近い売り上げがあります。しかし今、世の中の流れの中でイトーヨーカ堂の衣料品は苦戦をしています。在庫の問題など、様々な問題が山積しているのは確かです」
「ですから衣料部門の改革を、グループをあげて、グループの支援を受けながら、実行していきたいと思っています。これからはオムニチャネルだとか、色々な方法があります。世の中の流れに衣料部門がついていけなかったのは確かですが、今後は期待に添うような衣料品を作り上げていきたいと思います」
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