ヨーカ堂の対応に不満を持つ株主が

 男性株主から別の質問。イトーヨーカ堂の対応に不満を持つ株主が、村田社長を相手に興奮気味にまくし立てる。村田社長や亀井社長がそれに冷静に対応する一幕となった。

株主
「イトーヨーカ堂の対応について。上尾店や大宮宮原店を利用しているけれど、対応がおかしい。店長に連絡したが返事がなくて、電話をするというのだけれど、私のほうは電話をもらった記憶がなくて…」

村田氏
「すみませんが、要点を手短に...」

株主
「いや、だからこれからなんですよ!」(怒)、「そちらから電話が折り返し来たそうなんだけれど、平日の自宅にしか電話してこないみたいなんですね。これ、おかしいじゃないですか!」

亀井氏
「私どもイトーヨーカ堂の対応が悪い、というご指摘をいただきました。イトーヨーカ堂の社員と連絡がうまくとれなかったということですが、より密接にお客様と連絡を取り、前向きに、速やかに解決していこうと思います」

ついに井阪社長が登場!緊張の面持ち

 業績不振のイトーヨーカ堂に対しては、株主からも厳しい質問が相次いだ。亀井社長の前に座る井阪社長も、書類に目を落としている。

 別の質問。テーマはコンビニのアルバイトやパートの賃金について。労働力不足や高齢化などを受けて、コンビニでも年々、アルバイトやパートが集まりづらくなっている。

株主
「セブンイレブンはコンビニ業界で一番業績がいいわけだが、アルバイトの賃金が低い。株主の立場として恥ずかしい。もう少し、賃金をアップしてもいいのではないか」

 2号議案が可決されれば、鈴木会長に変わってセブン&アイのトップに就く井阪社長。今回の総会で初めて井阪社長が株主の質問に回答する。井阪社長は緊張している様子だ。

井阪氏
「貴重なご意見をいただきました。やりがいのある仕事、賃金も含めて考えていかなければいけません。株主様のお話を拝聴しながら肝に銘じました」

セブンイレブン1号店のオーナーが涙の訴え

 続いて、セブンイレブン1号店のオーナーが質問に立ち、涙ながらに語り始めた。

オーナー

「私はセブンイレブン1号店のオーナーです。鈴木会長が退任するということで驚いていますし、寂しく感じています」

「鈴木会長とは43年前から一緒にやってきました」(涙声)、「本当にご苦労様でした。鈴木会長のお陰で、一加盟店のオーナーとして、また一株主として、大変大きな成果を上げることができました。本当にありがとうございました」

「これからは新しいリーダーに井阪社長が、セブンイレブンでは古屋社長がリーダーとなります。私も30年来、2人を存じ上げていますが、本当に能力もあって、色々な面で長けた方だと思います。きっと、この会社を、健全で躍動感のある会社にしてくれると思います」

村田氏
「ありがとうございました。励ましのエールをいただきました。会長からも一言、お願いします」

 会場から大きな拍手が起き、ここでついに鈴木会長が登壇した。株主の多くが鈴木会長の言葉を待ちわびている。会場からはそんな雰囲気が伝わってきた。

鈴木氏

「会長の鈴木でございます。古くからのオーナーさんから、ご挨拶をいただきました。私どもがセブンイレブンを開発する時に進んでこれに参画していただきました」

「過去を振り返ると、オーナーさんが、これに参加していただけなかったら、現在のセブンイレブンの形はどうだったのかと思います。その後、オーナーさんは立派な成績を上げて、続く多くの仲間のみなさんが、こちらのお店に教えを請いにうかがいました」

「今後ともオーナーさんは頑張ってもらいたいと思いますし、私自身も今後、まだこの会社に顧問として残らせていただきます。そういう意味では、みなさんのお力になれることがあれば、できるだけのことをして、応援してまいりたいと思っています」

「どうも長い間お世話になりまして、ありがとうございました」

 涙ぐみ、言葉を詰まらせて感謝の思いを伝える1号店のオーナーや、その声に応えて、鈴木会長に登壇を促した村田社長。彼らの高揚感と比べると、鈴木会長の表情や語り口は、あっさりとしているように映る。退任を表明した会見と、同じ声のトーンではあるけれど、鈴木会長の表情は柔らかい。語り終え、鈴木会長がお辞儀をすると、会場は大きな拍手で溢れた。続いて、鈴木会長からバトンタッチを受ける井阪社長が、マイクを持つ。

井阪氏

「本当に、私が入社する前からお店をやっていただいてきました。本日私があるのも、オーナーさまと鈴木会長のお陰でございます。私はお二人とも創業者だと思っています」

「創業の精神を、これからもしっかりと育んで、強いチェーンであるように、精一杯努めていきたい」

 井阪社長もこう話しながら、途中で少し感極まったように声が震えていた。

伊藤名誉会長の次男、伊藤順朗取締役も

 別の質問。

株主

「CSRの取り組み、特に原材料のムダのない利用について質問をしたいと思います」

「現在、食品ロスが多くあると言われています。セブンイレブンも店舗数が多いので、その中で賞味期限切れの廃棄ロスが出てきます。廃棄をすることも必要だけれど、ムダのないように、例えば低所得者に廃棄する商品を引き渡すなどして、ロスを減らす仕組みを検討してもらいたい」

 この質問には伊藤順朗取締役が立ち上がった。伊藤取締役は、創業者である伊藤雅俊名誉会長の次男でCSR統括部シニアオフィサーなどを担当している。鈴木会長が井阪社長の更迭を問うた取締役会では、鈴木会長の案に反対票を投じた。一連のお家騒動では、創業ファミリーである伊藤家と鈴木会長の信頼関係にも焦点が当たった。こうした点について株主から問われる可能性はあったが、至ってまっとうな担当領域について、伊藤取締役が回答。

伊藤氏

「フードロスの問題は非常に大きな問題です。廃棄を減らすことや、リサイクルの取り組みを我々も実施しています。特にイトーヨーカ堂では、食品残渣をセブンファームで飼料として使っています。株主様のご意見は本当にもっともだと思うので、これからも取り組んで行こうと思います」

 廃棄ロスについては、加盟店オーナーの中でも、課題として認識されている(コンビニオーナーが一様に口にする、ある懺悔)。続いて質問に立ったのは、比較的若い男性の株主だった。

株主

「2号議案について、感謝を申し上げに福島から来ました。私ごとで恐縮ですが、私の親父が昭和50年代半ばからセブンイレブンのオーナーとなり、おふくろとともに店を切り盛りしてきました。その両親が4年前、震災の翌年に2人とも病気で亡くなりまして、事業は私の妹が継ぎました」

「両親は30代半ばでセブンイレブンを始めました。当時のノートが見つかって、読んでみると、初期投資に必要な資金をいかに工面して借金を返すか、またいかに売り上げを伸ばすのかについて、細かに書かれていました。2人の生涯を振り返った時、背負っていたものの重さを改めて感じています。それはとりもなおさず、事業の創設に関わった鈴木会長をはじめ、当時の方々にとっても、同じような、またはそれ以上の、我々には想像のつかない苦労や心労があったということだと推察しています。福島のような田舎では、最寄りのコンビニまでクルマで1時間というところもあります。ですから店の存在そのものが社会貢献だと思っています。両親は、誠実さや変化対応をモットーに歩んできたんだなと感じました」

「日々、便利さや快適さの追求に尽力している社員、オーナーのみなさまに、この場を借りて感謝をしたいと思います。そして鈴木会長に感謝の言葉を伝えたいと思いました」

村田氏

「ご両親のご苦労について、ご子息様が気づかれたということですね。特にセブンイレブンのような会社は、その思いをつなぐことが役割だと思っています。責務の重さを感じながら、これからの経営に当たりたいと思います」

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