ロンドン市民は「恐怖扇動キャンペーン」に屈しなかった

 カーン氏は選挙後、保守党陣営のこうしたキャンペーンを「ドナルド・トランプの手法そのものだ」と批判している。救いは、大半の米共和党支持者とは異なり、カーン氏に投票した異人種同士の共存を是とするロンドン市民には、トランプ氏が展開するような「恐怖扇動キャンペーン」は通用しなかったということだ。

 前述の通り、ロンドンは未だテロの脅威にさらされ続けている。先月にはISが「次はロンドン、ベルリン、ローマ」と各都市を名指しした攻撃宣言を行っている。また、イングランド中部の都市バーミンガムでは先月、今年3月に起きたベルギーの首都ブリュッセルでのテロに関連して逮捕者が出ており、欧州の主要都市は、引き続きイスラム過激派の攻撃に対する警戒を余儀なくされている。

 いわば、今回のロンドン市長選挙には、カーン氏がイスラム教徒であることを利用したネガティブキャンペーンを張るには格好の背景が存在した。それでも、ロンドン市民がカーン氏を選んだ意義は大きい。

トランプ氏による「米国入国許可」の申し出を拒否

 イスラム教徒の米国入国禁止を提唱しているトランプ氏は、カーン市長に対しては米国訪問を例外的に許可するとの声明を発表した。しかし、カーン氏はこれを「自分だけが例外にはならない」として、即座に拒否している。

 ちなみに、環境対策を専門とするゴールドスミス氏は、過激な行動で知られる環境団体シー・シェパードの「積極的な支持者」(本人のHPより)でもある。過去に何度も暴力的な活動を行ってきた団体を公然と、しかも直接的に支持することは、キャメロン首相にとって大した問題ではないようだ。カーン陣営が選挙期間中、この事例を用いてゴールドスミス氏の「過激派」との関与を問うた事例は見当たらない。

 初のイスラム教徒市長という快挙を成し遂げたカーン氏だが、本領発揮はこれからだ。選挙戦でのネガティブキャンペーンに加え、カーン氏が選出された当夜の演説中、各候補が居並ぶなか、壇上でカーン氏に背を向けた人物がいた。移民排斥を訴える、極右イギリス国民党の白人男性候補である。新市長がテロの脅威や、社会の分断を望む国内勢力との戦いを制し、国際都市を安全に運営し続けて行くことができるのか、注目が続く。