高い経済成長率を誇ったアキノ時代

 アキノ政権は任期中、2011年を除いておよそ年6%の経済成長を維持。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の中でも高い伸びを誇る。

 フィリピンはかつて、外資系企業が進出をためらう国の1つであった。政権が変わるごとに政情が不安定になり、治安への不安も大きかったからだ。このためタイやインドネシア、マレーシアやベトナムなどASEANのほかの国に後れを取っていた。

 だが、アキノ政権は犯罪の撲滅を進めてきた。近隣国の人件費が急騰するなかで、これを年率2~3%程度に抑えたフィリピンは、外資企業が注目する存在になった。優遇税制を整備するなど、海外から直接投資を呼び込む経済政策を推進。失業率も低下する傾向にあった。

 こうした実績により、アキノ大統領は内外から高く評価されている。だが、フィリピンの憲法は大統領任期を6年と定め、再選を禁じている。二度と「独裁者」を生まないためだ。マルコス元大統領の長期政権を終焉させた「人民革命」の後に制定された現行憲法は、たとえ評価が高い大統領であっても、6年後には必ず代わることを定めた。

アキノ後継を一本化できず

 今回の選挙の争点の一つは、アキノ路線を継承するか否か。各候補が獲得した票数を見ると、アキノ路線を否定する声が大勢を占めたわけではないことが分かる。

 アキノ路線を引き継ぐとした候補が複数立候補し、一本化できなかったために票が割れてしまったのだ。

 無所属で立候補したグレース・ポー上院議員はアキノ氏の路線を継承すると宣言して人気を博した。かつて孤児だった同氏は、フィリピンの人気俳優であるフェルナンド・ポー・ジュニアの養子となる。米国で政治学を学んだ経験があり、イメージもクリーンだ。

 だが、アキノ大統領は後継者にマヌエル・ロハス前内務・自治相を指名した。ロハス氏は有名な政治一家に生まれ育った。祖父は元大統領で、フィリピンの100ペソ札の肖像にもなっている人物だ。父親は元上院議員。だが、ロハス氏自身は人気に乏しい。

 それでもアキノ大統領はロハス氏を後継に推さなければならない理由があった。6年前に行われた前回の大統領選挙で、党候補者を一本化するため、ロハス氏がアキノ氏にその座を譲った経緯がある。

 ロハス氏の得票率は約23.2%(開票率89.3%時点)で、ポー氏は約21.7%。ロハス氏とポー氏の得票を合計すれば、当選したドゥテルテ氏の得票率(約38.7%)を上回る。「たられば」の議論になるが、候補者を一本化できていれば、アキノ路線の継承は可能だっただろう。

対中関係、TPPなどに不安

 ドゥテルテ氏が大統領に就任するのは、議会による承認を経た後の6月。次期政権の政策で気になるのは、対中政策とTPP(環太平洋経済連携協定)への取り組みだ。

 南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島に中国が人工島を造成し、滑走路や港湾を整備している。軍事拠点化が進むとの懸念があり、フィリピンとの間に緊張が高まっている。

 フィリピンは米軍の再駐留を認める「米比防衛協力強化協定」を2014年に締結した(米軍は1992年にいったん撤退していた)。これは南シナ海への進出を強化する中国をけん制するための措置だ。米比両政府は今年3月18日、米ワシントンで戦略対話を行い、フィリピンにある5カ所の空軍基地を米軍の拠点とすることでも合意している。

 アキノ大統領は昨年6月に訪日した際、安倍晋三首相と会談し、安全保障面での協力を深化させることで一致した。

 これに対してドゥテルテ氏は、南シナ海において中国と資源の共同探査をするなどと発言しており、親中路線に舵を切るのではとの懸念が高まっている。

 アキノ大統領は昨年12月、TPPに参加する意欲を口にした。フィリピンがTPPに参加するかどうかは、同国への進出を考える日系企業にとって重要なポイントだ。ドゥテルテ氏はいまのところ、TPP参加について否定も肯定もしていない。

 次期大統領となるドゥテルテ氏の行動次第で、アジアの均衡が崩れる可能性がある。