井阪さんの言う「価値の追求」とは何を指しているのでしょうか。事業会社にとって、お客様目線が大切であることは理解できます。しかし持ち会社の経営では株主の期待にも応えなければなりません。

井阪:私たちの産業は、お客様目線を忘れたら正しい選択はできないと思っています。お客様や加盟店、社員、取引先といった、みなさんが満足した結果として、株主に十分な還元がなされるはずですから。セブン&アイの経営でもやはり、お客様を無視した価値観はあり得ない。もちろん事業会社が最もお客様との接点は多いのだけれど、持ち株会社としても、その価値観を追求していかなくてはならないはずです。

「価値の追求」を実践するための優先順位は何でしょうか。セブン&アイが抱える課題にどのように優先順位を付けて、解決していく考えですか。

井阪:それはこれからゆっくり、じっくり、各事業会社と対話しながら決めていきたいですね。

ヨーカ堂改革、「鈴木流を踏襲する」

一つの焦点となるイトーヨーカ堂の建て直しについてはいかがですか。

井阪:イトーヨーカ堂についてはこの3月8日に発表した構造改革を踏襲しながら、具体的にどう進捗するのかを精査していきたいと思っています。

これまで鈴木会長が主張してきた、セブンイレブン流の経営をイトーヨーカ堂に注入する、という方法も踏襲するのでしょうか。

井阪:会長のアプローチが正しいと思いますから。大切なのは、PCDAサイクルをしっかり回すことにあります。特にセブンイレブンの場合、フランチャイズビジネスですから、加盟店に対しても常にモチベーションを高めていかないといけませんし、加盟店から情報が上がって、現場でイノベーションが起こることもある。ボトムアップでイノベーションが生まれる経営スタイルが重要なのです。

 独立運営店舗である加盟店の現場から声を上げてもらって、地域に合った商品構成や売り場作りを実践していくことが、セブンイレブンの加盟店ビジネスの本流です。この手法にならった取り組みを、今後はイトーヨーカ堂にも入れていくつもりです。

鈴木会長はこれまで長年、手を変え品を変えてセブンイレブン流をイトーヨーカ堂に移植し、改革をしようとしてきたけれど、結局、十分な成果を出し切れずに退任します。セブンイレブン流をイトーヨーカ堂に導入しようとしてきた「弊害」もあったと思います。それでも従来の改革方針を続けるのでしょうか。

井阪:細部についてはこれからしっかりと、事業会社と話し合いながらやっていきたいと思っています。ただ、大切なのは繰り返しますが、仮説検証にあります。

 店舗のあるエリアのお客様には、どんな商品が喜ばれるのか、どんな品揃えにすべきなのか。実践して成果が出て、働く人のモチベーションが上がる。これがPDCAサイクルであり、グループのDNAでもあります。このPDCAが回るようにすることが、私の役目です。

 事実、私がセブンイレブンの社長に就いてから実践してきたことは、仮設検証を重ねることだけだったと言っても過言ではありません。当時、コンビニ飽和論が出ていた中で、「近くて便利」というコンセプトを打ち出しながら、もう1度、今の時代のコンビニの役割を再定義し、成長させてきました(詳細は「セブン&アイ次期社長、井阪氏の“矜持”」)。

 おそらく同じことを、イトーヨーカ堂などの大型店でも実践していくのでしょう。イトーヨーカ堂の方が、店舗の標準化がされていないので、簡単には水平展開できませんが。

改革を実践できる人材はいるのでしょうか。

井阪:これからゆっくりと対話をしながら、見極めていきたいですね。まだ私はセブン&アイの社長にもなっていませんから。