「解繊」装置に垂れ幕

 日本製紙にとって逆転の切り札であるCNFの細かな製法は秘中の秘。山口県の実証プラントはこれまで報道機関を一切遮断。社内でもごく限られた職責の人間しか出入りできなかった。そのため、石巻の新設ラインの公開には各メディアの注目が集まっていた。

 新ラインの立ち入りの際はカメラも携帯も持ち込めず、写真は日本製紙からの提供のみ。情報統制のための誓約書へのサインも求められた。厳重な管理に反して、建屋のたたずまいは質素。震災で被災後、修繕を見送ってきた新聞紙向けの古紙パルプ工場を改築したためだ。現在の500トンの生産ラインでは建屋面積の3割しか使用しておらず、2019年以降のライン増設も検討していく。

新ラインは新聞紙向けパルプ工場を改築した

 内部に入るとまず目に付くのは、上の写真中央に見える巨大な2つのタンク。ここで触媒とパルプを混ぜてイオン化する。周囲に並ぶのは洗浄や金属イオン付加のための装置だ。

 写真には写っていないが、右手にはイオン化した繊維を物理的に解きほぐす「解繊」と呼ばれる工程の装置がある。しかし、周囲は竣工式で使っていたものと同じ紅白幕でぐるりと囲まれ、装置自体にも白い布がかけられていた。CNF研究所の河崎雅行所長は「ここだけは誰にも見られるわけにはいかない」と話す。

 解繊は繊維同士を衝突させたり、超音波を使ったりする方法がある。河崎所長によると、それぞれは特許も公開されている技術だが、複数の解繊方法を組み合わせることが効率的な生産の秘訣なのだそうだ。生産コストが課題になっているCNFでは、技術開発による生産効率化がメーカーの競争力の源泉になる。解繊もその1つだ。

自動車向けの素材戦争に参入

 素材事業の本命である輸送機器、とりわけ自動車市場は特にコスト要求が厳しい。CNFは未だ1kg当たり1万円の製造コストがかかっており、20~30分の1に低減することが必要になる。石巻工場は初の量産工場であると同時に、生産技術の課題を洗い出すための実験プラントでもある。

 日本製紙のCNF研究所は静岡の自動車向け工場の敷地内に近く居を移す。需要家に近い土地に知見を集約し、軽量素材のシェア争いが激化する自動車市場に参入を図る。

 炭素繊維は釣り竿などから地道に生産量を増やし、自動車市場のとば口に立つまで半世紀をかけた。本業の不調にあえぐ製紙メーカーがそこまでの長期スパンで投資を続けることは難しい。日本製紙は尖兵としてCNFの道のりを開拓することが生き残りのカギとなる。