中国より、むしろ日本が標的になる可能性

 中国から為替政策や貿易政策で、あまり多くの成果が得られない可能性があるとなると、日本や他の国に対しての要求が強まる可能性はあるかもしれない。米国の「為替報告書」で通貨が安過ぎると明確に指摘しているのが、台湾と韓国で、暗に通貨安の可能性を示唆しているのが、日本だ。

 日本に対しては、まずは、二国間交渉のなかで自動車や農業などの貿易問題が改めて焦点になっていくと見込まれる。USTRは本年3月末に2017年の「貿易障壁報告書」を発表し、日本に対しては牛肉など農畜産分野の高関税を批判し、自動車分野も「認証制度などさまざまな非関税障壁が米国車の市場参入を妨げている」と指摘している。そのため、どのような交渉になるのか、日本の企業も心配しているだろう。

 日本の場合、為替介入は2011年以降はしていないので、日本銀行の超金融緩和の結果として生じている円安を黙認するのかどうかが注目される。日本の金融緩和は、2%の物価の安定を目指して行われている。G20でも、国内の物価安定目的での金融緩和は認められている。ところが、そうした超金融緩和は、通貨安誘導との見方がけっこう内外である。

 日本では、超金融緩和をしても、お金の貸し出し先が乏しい。大企業も現金を多く抱えており資金需要が大きくないところに、人口減少で市場が縮小する見通しのなか更新投資や人件費を節約する設備投資が中心で、生産能力を増強する投資は少ない。家計の消費は低迷したままだ。そのため、円安・株高が唯一の金融緩和効果になっているとみられてしまっているのが現状だ。

財務省・日銀・金融庁の緊急会合は「円安誘導」

 また、円高になるたびに、財務省・日銀・金融庁幹部が緊急会合を開催し、市場を牽制するような行為が見られる。国際的には、そうした行動が円安誘導ととられがちで、昨年までの米国財務省の「為替報告書」ではそれを指摘してきている。この点は、この半年間は円安方向にあってそうした会合が開催されていないこともあり、今回の報告書には触れられてはいない。

 ただ、「超金融緩和も突き詰めれば円安誘導ではないか」という見方が、米国の自動車業界を中心にある。今回の米国出張でも、一般論として超金融緩和のもっとも強い効果は、自国通貨の為替安をもたらす「為替効果チャネルだ」との声は、複数の金融機関や研究者からも聞かれたところだ。中銀が認めるかどうかはともかくとして、実際にはそういう見方がされている。

 「為替報告書」では、日本に対して比較的厳しい内容だったとの印象を持っている。それには、2つ理由がある。一つは、仮に為替介入をする場合は、例外的な状況にあるときだけで、しかも事前に米国などと協議すべきと明確に書いてある。事実上、介入は認めないというメッセージだ。

 もう一つは、円の為替レートはもはや高すぎるという状況ではないと指摘している。既に過去20年平均と比べて実質為替レートは20%も安くなっているとしたうえに、国際通貨基金(IMF)の対日報告書の円相場は「ファンダメンタルズに沿っている」との判断も挙げている。

 ちなみに同報告書は8月始めに公表されたが、その報告書を執筆した6~7月頃は、円ドル相場が100~105円あたりなので、このあたりの水準を適正だとみているようだ。日米の金融政策の方向が違うことにより、ドル高円安が進んだので、米国がこうした金融緩和政策だけにたよらず、日本の成長期待を高めて内需を拡大するような構造改革をもっと迫る可能性はあるだろう。

 日本銀行は、あらゆる手段を使って超低金利を実現した。しかし緩和が長引くと、企業や家計がそれに慣れてしまって、当たり前になってしまい、金融緩和に対して設備投資や消費を増やすなどの反応は弱まってくる。

 一方で、超低金利が長期化することで、銀行や生保・年金などの収益を下押しし、企業の新陳代謝も進まなくなる。貯蓄型の年金保険商品などが姿を消し、低い預金金利の中で家計の資産形成も進みにくくなる。

 しかも、10年金利を昨年7月から0%程度で維持しようとしているので、国債の市場価格が市場価格でなくなってしまっており、市場の厚みが薄くなっている。そのため、何かあると金利が大きく上昇する恐れがある。直接、上場投資信託(ETF)も買い入れていることから、株式市場でも日銀介入を意識した取引が形成されている。

 日銀がいずれ今の超金融緩和をやめなければならない時期は来る。そのときに、きちんとした市場機能を持たせるようにするのは、大変だ。

 日銀に頼らなくても日本経済が自立していけるように、規制緩和や成長戦略に早く舵をきらないといけない。日米経済対話を一つのきっかけにするべきだろう。

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