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日本政府が米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP)へと舵を切った。政府内で異論がある中での官邸主導の決断だった。外交当局や農業関係者から挙がる慎重論を官邸が跳ね返した狙いはどこにあるのか。元経産省米州課長の細川昌彦氏(中部大学特任教授)が、交渉の駆け引きを読み解く。(「トランプウオッチ」でトランプ政権関連の情報を随時更新中)

米離脱表後、3月にチリで開かれたTPP閣僚会合。当時は「米抜き」に慎重だったが…(写真=Agencia EFE/アフロ)

 日本政府が米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP)へと舵を切った。政府内で異論がある中での官邸主導の決断だった。慎重論は2つの勢力から挙がっていた。1つは、米国の神経を逆なでしないかを気にする外交当局。そしてTPPでの譲歩を免れてホッとしている農業関係者である。

 伏線は2月の日米首脳会談にあった。共同声明で「日米二国間の枠組みの議論を行うこと」と「日本が既存のイニシアティブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進すること」が併記された。これが、米国との二国間の協議に応じるとともに、米国抜きでのTPPを推進していくことへの布石となっている。日本の交渉関係者の知恵だろう。これで一応米国にも「仁義を切った」と言える。

 それでも依然政府内には慎重論が根強くあった。

 3月、チリでのTPP閣僚会合では日本は未だ慎重姿勢だった。他方、そこには中国がオブザーバーで参加していた。中国はアジア太平洋の市場でのルール作りで主導権を狙ったTPPに対して危機感を持っていた。その中国を主催国のチリが参加させたのだ。日本政府は唖然とした。チリは、TPPの本質が中国を睨んだ戦略であることを理解していないようだ。

 このまま参加国の足並みが乱れた状況を静観していれば、TPPは崩壊しかねない。そうすれば、「いずれ米国を迎え入れる」という日本の戦略も絵に描いた餅になる。

 危機感を抱いた官邸が動いた。

 「米国が参加したTPP」という空念仏をいくら唱えても意味がない。今は「TPPは過去のもの」と言っている米国だが、将来米国が入ってくる受け皿を作っておくことが大事だとの判断だ。

 米国抜きTPPを豪州、カナダなどが主張していることも大きい。日本の通商戦略のスタンスとして多角的に展開していくことが基本にある。特に豪州についてはトランプ政権とギクシャクしている中で、中国が豪州に秋波を送っていることは要注意だ。TPPの推進のパートナーとして豪州を繋ぎ止めておくことは、中長期的に見て、米国にとってもプラスになるはずだ。